研究課題/領域番号 |
15K00381
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
松川 睦 日本大学, 医学部, 助手 (90318436)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 感性形成機構 / ストレス反応 / ストレス緩和 / 嗅球 |
研究実績の概要 |
本研究では、動物が先天的に持っている価値判断基準が経験によって修正・改変される際に生じる、選択的かつ直接的な脳内抑制システムについて調査するために、どのような神経細胞もしくは神経回路が抑制システムに重要なのかを検索することを目的としている。本年度はまず、匂い情報を最初に受け取る脳部位である嗅球を対象として、先天的な反応を抑制することで生じる変化を遺伝子発現の解析という手法を用いて比較・検討した。 匂い刺激としては、動物に先天的に恐怖反応を惹起する捕食者の匂いであるキツネ臭および、この捕食者臭によって誘発されるストレス反応を先天的に抑制することができるバラ臭を用い、キツネ臭のみ嗅がせた個体(ストレス反応を生じる)とキツネ臭とバラ臭の混合臭を嗅がせた個体(ストレス反応が抑制される)、および対照群として水を嗅がせた個体の嗅球における匂い刺激後の遺伝子発現の変化(発現増加もしくは発現抑制)を次世代シークエンス法により解析し各グループ間の比較を行った。 その結果、非常に少数の遺伝子にのみ若干の優位差がみられるものの、一般的に神経系で発現されている遺伝子群については、それぞれのグループ間でほぼ変化がみられないという結果が得られた。また、嗅球における活性化神経細胞数の変化も、これらのグループ間で差が見られず、すべての個体が同じように活性化されており、遺伝子発現の変化に差が見られなかった結果を裏付けるものと考えられた。これらの結果から、嗅球のレベルにおいては、匂いによって惹起される反応を匂いによって抑制する際の選択的な制御機構は見られない可能性が高いことを示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
動物が先天的に持っている価値判断基準が経験によって修正・改変される際に生じる、選択的かつ直接的な脳内抑制システムについて調査するために、まず脳内のどこで、どの神経細胞が、もしくはどの神経回路が抑制システムに重要なのかを検索するための候補領域の探索を行っている。本年度は、鼻で受容した匂い物質の情報を脳内で最初に受け取って、一次嗅覚野へとその情報を中継する部位である嗅球において、匂い刺激によって発現誘導もしくは抑制される遺伝子群の解析を行った。
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今後の研究の推進方策 |
現在引き続き、関与する脳内神経回路網もしくは脳部位を特定するための候補領域を探索している。嗅覚情報処理過程(嗅球や一次嗅皮質)および嗅覚関連領域以外でこれまでに関与が示唆されている脳領域(分界条床核や扁桃体など)を対象として、関連することが考えられる脳領域における遺伝子発現の変化について次世代シークエンス法を用いて1か所ずつ検討していく。候補領域が見つかれば、これを選択的に破壊することで、実際にストレス反応が変化するのかどうかの検証実験を並行していく予定である。これらの一連の結果を総合的に検証することにより、目的とする脳内抑制システムの特定を行うことで、匂いによるストレス反応に関する選択的かつ直接的な脳内抑制システムについて明らかになるだけでなく、新たなストレス対策法の開発へ発展されることなどが期待される。
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