人と人とが対面しコミュニケーションを行う時、言語情報だけでなく視覚的に得られる表情等の情報も同時に伝達され、言語情報を補うように機能している。本研究は、対面コミュニケーションの状況下で、表情等の視覚的情報を操作することによってコミュニケーション中の感情状態を変化させる技術を構築すると同時に、その技術を用いてコミュニケーションにおける人間の感情表出と感情認識の役割を実験的に調査することを目的とした。具体的には、(1)画像処理による自然かつリアルタイムな表情変調技術の開発、(2)感情表出者への表情フィードバックを操作することによる感情誘導技術の確立とその背景となるメカニズムの理解、(3)上記要素技術を用いたコミュニケーションを促進あるいは変調するシステムの構築を目標とした。 この本研究が参照する表情フィードバックの効果を示したStrack et al. (1998)について、2016年にプレレジストレーションを行なった上で複数のラボが協力した大規模な再実験が行われ、再現性が認められないという結果が発表された。本研究の仮説が前提とする知見に疑義が生じたことから、我々は本プロジェクトの当初の目的であるコミュニケーションの変調の効果について有意義な議論が困難であると判断し、実施しないこととした。画像処理によるリアルタイムの表情変調については、SIFTを用いた特徴点抽出を使ったコンベンショナルな手法に基づくシステムを構築した。これについて近年になって機械学習による画像生成技術が進歩し生成画像の品質が急激に向上してきたことを受け、GAN(Generative Adversarial Network)を使った表情変調を再実装し、その実装を成果として公開する。その上で、当初予定した経費について、変更によって実施しなかったことによる未使用分について、国庫に返還することとした。
|