研究課題/領域番号 |
15K00394
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
中尾 光之 東北大学, 情報科学研究科, 教授 (20172265)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 解糖系 / 確率オートマトン / 乳酸呼吸 |
研究実績の概要 |
疫学的にも実験的にも生物時計機構が障害されるとガンの発生率や進行が有意に高まることが報告されている。これを担う分子的なメカニズムとして生物時計機構から細胞周期への作用が明らかにされつつあり、ガンの時間療法に一定の合理性を与えている。本研究で は、周期外力による同期、DNA 損傷による修復や細胞死、チェックポイント・メカニズムなど、確率オートマトンにより細胞周期をモデル化した。概日リズムに依存したガン化やガン進行のメカニズムを明らかにし、それに基づいて時間治療の効果を評価する枠組みを 提案することが本研究の目的である。平成29年度は、概日リズムの制御を受ける細胞周期確率オートマトンモデルに、細胞外環境の栄養状態により好気性、解糖系、乳酸呼吸代謝を選択する確率的メカニズムを組込んだ。また、栄養状態により細胞周期の進行を制御するRチェックポイントのメカニズムを導入した。さらに、3次元グリッド上に正常細胞あるいはガン細胞を配置し集団中で選択された代謝の分布および増殖ダイナミクスを調べた。そのため、3D空間の物質の拡散をシミュレーションするADI法(f-factor)を実装した。その結果、(1)細胞内ATPおよびバイオマス濃度の細胞周期ステージ依存性を再現した。(2)Glucose源に近い血管近傍の細胞が解糖系を選択して乳酸を排出し、遠位の細胞がその乳酸を取込んで代謝に利用する方が、好気性の代謝を選ぶよりも、低栄養状態では生存率が高くなることが示された。(3)細胞周期が短縮すると直感的には増殖率が高まることが予想されるが、栄養源が有限である場合、逆に周期が長い方が増殖率が上昇することが分かった。以上の結果は代謝系の修飾を通してガン増殖を抑制できる可能性を示唆するものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、正常とガン細胞で異なる代謝経路選択と概日リズム制御下にある細胞周期進行を関連づけてモデル化し、細胞外環境の栄養状態に依存した増殖率の違いを明らかにするためのシミュレーションを行っている。そのために、確率オートマトンによる細胞周期モデルを作成するとともに、グルコースや酸素の拡散を3D空間で数値計算するADI法を実装することで、シミュレーションの効率化を実現した。これにより、現実に近い環境で代謝経路選択とガン細胞増殖率に着目して概日リズムとガン増殖の関係を明らかにすることができた。一方で、ガンは部位ごとに多様であり、概日リズムからの影響も異なることから、具体的な部位に絞った適用を行ってモデルの有効性を確かめる必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は、細胞内概日時計の支配を受けるガン細胞の増殖オートマトンモデルを構築して、シミュレーションするものであった。一般的なガン化あるいは増殖のメカニズムをその対象にしてこれまで研究を行ってきた。しかしながらガンは部位ごとに多様であり、従って概日リズムからの影響も異なる。このため対象を肝臓に絞り、これまでに確立された確率オートマトンモデルの有効性を確かめる。肝臓においては、概日リズムの乱れによって肝組織内で産生される胆汁酸濃度の異常な高まりが肝ガンへの移行メカニズムとして注目されている。今後は、概日リズム制御下にある胆汁酸のリサイクル、産生の制御機構をモデル化し、それを細胞増殖モデルに組み込み、リズムの乱れとガン化の因果関係の詳細を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究は、細胞内概日リズムの支配を受けるガン細胞の増殖オートマトンモデルを構築して、シミュレーションするものであった。一般的なガン化あるいは増殖のメカニズムをその対象にしてこれまで研究を行ってきた。しかしながらガンは部位ごとに多様であり、従って概日リズムのからの影響も異なる。このため対象を肝臓に絞ってモデルを適用しその有効性を確かめることが必要になった。肝ガンにおいては、リズムの乱れによる肝臓内の胆汁酸の異常な高まりが主要因として注目されている。今後は、肝組織内の胆汁酸のリサイクル、産生の制御機構をモデル化し、これまでに構築した確率オートマトンの細胞増殖モデルと組み合わせることによる、概日リズムの乱れと肝ガン移行のシミュレーションに研究費を使用する。また、国際会議での発表と原著論文での出版を行う。
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