新規の転写数理モデルをベースに独自プログラムを構築することで、大規模計算機による遺伝子転写の計算機シミュレーションを行った。これまでの研究で、ヒトの長さ100kbp以上の一部の遺伝子について、転写運動の数理モデリングと計算機シミュレーションに成功している。この結果では、我々の転写数理モデルが100kbp以上の長い遺伝子について、実際の転写過程の細胞実験データをよく再現できていることがわかる。本研究では、より精度の高い数理モデル化を進めることで、主要な遺伝子や疾患細胞特有の転写運動についてもシミュレーションを行った。 このように、現実の細胞実験データを再現する数理モデルが構築できたとき、この数理モデルによる計算機シミュレーションの大きな利点としては、細胞実験では不可能な条件における転写現象の予測が可能となることがあげられる。例えば、DNA上に仮想の結合タンパク質を結合させ、転写速度変化率γを変化させた場合のRNAPIIの転写運動の挙動など、計算機シミュレーションによって転写運動がどのように変化するか予測を行うことも可能となる。本研究では、このような予測シミュレーションを位相幾何学を用いることでさらに進めて、様々な疾患細胞の遺伝子発現のみならず、より深く転写機構の変化にまで迫った疾患の根本的な原因究明を行った。 さらに、これまでの細胞集団の平均的な解析だけではなく、1細胞レベルでの転写の計算機シミュレーションを行うことで、シングルセル解析などにおける細胞実験との比較も行い、分化能や発現量の高い細胞特有の転写機構についても独自の解明を進めた。
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