研究実績の概要 |
タンパク質に翻訳されず遺伝子発現を調節するなどの役割を持つnon-coding RNAの機能に注目が集まっている。その機能は構造に特徴付けることができ、従来のRNA遺伝子発見法では、局所的なゲノム配列比較(アラインメント)を行って遺伝子候補領域を選択した後、RNAのシグナルとなる構造形成の可能性を調査する。ただし、この手法では最初に構造情報を考慮していないため、配列としての類似度は低いが構造レベルでは類似する領域を見逃してしまう。本研究では、可能なすべての構造集合の粗視化情報をもとに、ゲノム配列上で最初から構造を考慮した比較解析を高速に行うことで、新規RNA遺伝子を発見することを目的とする。これにより、従来予測法による偽陽性遺伝子の減少を含めた高精度のRNA遺伝子発見につながることが期待される。 最終年度である今年度では、前年度までに開発した構造RNA遺伝子発見手法DotcodeRの多角的な評価を行った。まず、前年度同様、実際の生物データであるヒト21番染色体とマウス19番染色体の組に対してDotcodeRを適用した。なお、適用にあたっては、300x300=90,000回の部分問題をコンピュータークラスターを用いて並列に計算し、結果を統合する分割統治法を利用した。既知のRNA遺伝子の組を提案手法でどれだけ発見できたかを示す感度を、既知の構造RNAの種類ごとに計算した結果、平均して83%という高い精度を達成した。以上の成果を論文にまとめ、国際論文誌BMC Genomicsに掲載された。 研究期間全体を通じて得られた結果として、配列アラインメント不要の高速なゲノムワイドRNA遺伝子発見ツールの開発に成功した。本手法は計算量のかかる精緻なRNA構造比較アルゴリズムの前処理としてのゲノムワイドスクリーニングに有用であることが期待される。
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