近年、機器制御の自動化やイメージング技術の発展などの要因により、培養細胞や生体環境のライブイメージングが可能となっている。一方で、様々な実験条件下で高並列かつ長時間に渡って撮影された大量の動画からは、人力によっては定量的・客観的な解析が困難であるという問題もある。本研究では、様々な条件下で経時観察されたバイオイメージングデータを入力とし、細胞の自動追跡というニーズが発生した際に、それに潜在的に付随する一連の時空間解析までをフレームワークとして提案する。このフレームワークは「細胞の位置の追跡と状態推定によるデータの構造化の方法」と「構造化されたデータの時空間解析の方法」からなるもので、細胞動態の時空間的な差異を可視化し、定量的に比較して有意差の検定を行い、また差異の要因を推定するための方法論を提供する。 本年度には主に次の3つの基盤技術についての研究開発を行った。1つは深層学習を用いた細胞の自動認識手法の発展である。これは昨年度の方法を発展させたもので、認識精度の改善を達成した。もう1つは全体最適化のアルゴリズムを用いた細胞追跡手法の開発である。これにより同じような見た目の細胞が密集した状況下での追跡精度を改善した。もう1つはオプティカルフローを用いた細胞と環境の状態の定量化手法の開発である。ある種の環境下では細胞を個別に追跡するのは難しいため、deep matchingと呼ばれる方法と隠れマルコフモデルを組み合わせて、組織における炎症の程度を定量化する方法を開発した。
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