研究課題/領域番号 |
15K00405
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研究機関 | 香川大学 |
研究代表者 |
北島 博之 香川大学, 工学部, 教授 (90314905)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 心臓数理モデル / FPGA / OpenCL |
研究実績の概要 |
本年度は下記の2点に焦点を絞り,研究を行った. 1.超並列計算手法の開発 OpenCL(Open Computer Language)を用いてFPGA(書き換え可能なLSI)上に心室筋細胞数理モデルであるLuo-Rudyモデルのシミュレータを構築した.同モデルは8次元の常微分方程式で記述され,ゲート関数には多くの指数関数を含む複雑な数式で記述される.従来のOpenCLでの記述法では,FPGAボードの資源(乗算器,ロジックエレメント,DSP,メモリ等)の使用率が上限を超えてしまうために,それらを抑えるために,(1)ルックアップテーブルの使用,(2)計算コストの高い除算の専用回路化,(3)神経細胞数理モデルでよく使われる指数関数の計算のための専用回路化を行った.結果として,FPGAボード上にシミュレータを構築することができ,CPU単体で計算するよりは最大で約30倍の高速化および電力消費の97.1%の削減が達成された. 2.数理モデルの解析 甲殻類の心臓数理モデルを用いて各種イオン電流のコンダクタンス値の増減が交互脈の発生にどのように寄与するかをより詳しく調べた.結果として,カルシウム依存型カリウム電流のコンダクタンス値(大細胞と小細胞の細胞体)のみを減少させることにより,小細胞の軸索の膜電位のバースト発火持続時間が増加し,かつその期間に大細胞の軸索の膜電位が2度のバースト発火を起こす(小細胞1に対して大細胞が2回のバースト発火)現象を見出した.これは,矢澤による動物実験の結果を忠実に再現するもので,動物実験ではその発生メカニズムが分からなかったが,数理モデルを用いた実験によりキーとなるイオン電流を特定することが可能となった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
心筋細胞数理モデルのシミュレータをFPGA上でOpenCLを用いて構築した.OpenCLはC言語に似た言語であり,ハードウェア記述言語であるVHDL等を用いる場合より容易に実装が可能となる.結果としてCPUを用いた場合よりも高速かつ低消費電力でシミュレーションができることがわかった.心筋細胞数理モデルの解析においては,甲殻類心臓モデルにおいてカルシウム依存型カリウムイオン電流のコンダクタンスを変化させることにより,動物実験での心筋細胞の膜電位波形を再現することができ,動物実験では不可能であるその原因を特定することができた.以上の理由により,本研究は順調に進展しているといえる.
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今後の研究の推進方策 |
OpenCLを用いた心臓数理モデル・シミュレータの開発では,FPGA単体での構築に成功したので,今後はCPUやGPUなどの異なるプラットフォームを用いた超並列シミュレータの完成を目指す.グラフィックボードについては,NVIDIA社ではOpenCLへの対応が悪い事が分かったので,AMD社のボードを用いて実装を行う.数理モデルの解析では,下記の2つについて研究を進める:(1)甲殻類心臓数理モデルを用いて,動物実験で観測されている交互脈以外の不整脈(特に3周期の脈)について,パラメータ空間をつぶさに調査することにより,その発生要因を探る,(2)ウサギの心臓数理モデルを用いて,カルシウムイオンに関連する電流に着目して,QT延長および早期後脱分極(EAD)の発生メカニズムを分岐理論を用いて解明する.特に,EADの発生と,刺激電流がない状態での自励振動の発生(Hopf分岐)の関連性について調査する.
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次年度使用額が生じた理由 |
OpenCLに対応したグラフィックボードとして業界最大手のNVIDIA社製の物を考えており,その対応を調査していた.しかし,ドライバのアップデートが更新されず,現状では使えないと判断した.グラフィックボードを購入する研究費が次年度に繰越となった.
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次年度使用額の使用計画 |
詳しく調査した結果,AMD社のボードはOpenCLに対応していることが分かったので,平成29 年度は,その経費を用いてGPUボードを購入しFPGA, CPUを用いた超並列シミュレータを開発する.
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