研究課題/領域番号 |
15K00406
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研究機関 | 北里大学 |
研究代表者 |
能登 香 北里大学, 一般教育部, 講師 (20361818)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 生体分子シミュレーション / 抗体 / 糖鎖 / 分子間相互作用 |
研究実績の概要 |
本研究は,生体分子の一つの活性部位を対象にしていた従来の生体分子のシミュレーション方法を,複数部位でリガンド認識する,或いはリガンドの結合によって生体分子自体の構造変化が起こるような,より複雑な認識機構を有する生体分子機能を標的にできる手法を開発することを目的とする.本研究の対象は,HIV-1表面糖タンパク質gp120の糖鎖部分に結合するPGT抗体である. 今年度は,PGT抗体の糖鎖認識に関する基礎的な知見を得た.PGT128抗体がgp120の二つの糖鎖リガンドを介して結合する結晶構造 (PDBID:3TYG)を出発構造として古典分子動力学(MD)シミュレーションを行い,この複合体の立体構造の変化を解析した.その結果,一方の糖鎖リガンドがgp120 と PGT128 抗体を橋渡しするように結合し,複合体全体の構造安定性に寄与していることが明らかになった(第34回日本糖質学会年会で報告).さらに,MDシミュレーションの単位時間刻みのスナップショット構造に対し,電子相関を考慮した大規模量子化学計算を行い,詳細な抗原-抗体間の相互作用を定量的に見積もった.それぞれの糖鎖における相互作用エネルギーを比較考察し,抗体―タンパク質結合において重要な役割を持つ糖鎖リガンドの部位を明らかにした(第9回分子科学討論会で報告). 最近,PGT128 抗体,HIV-1 表面タンパク質全体(gp120及びgp41)と別の抗体が結合する巨大な結晶構造 (PDBID:5C7K)が発表された.この構造におけるPGT128抗体とgp120間の相互作用エネルギーを前述と同様に計算し,3TYGの結果と比較解析した(第96日本化学会春季年会で報告). また,本研究の生体内水分子に注目したシミュレーション手法に関して環太平洋国際科学会議で発表した.現在,この手法に関する学術論文を投稿中である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成27年度は,PGT128抗体を対象に抗体の糖鎖認識に関する基礎的な知見を得ることを積極的に進め,結果を一つの国際学会及び三つの国内の学会で発表し,現在学術論文を投稿中である.このため,概ね順調に進行していると考える.
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今後の研究の推進方策 |
今年度は昨年度の研究対象を拡張する.前述の通り,PGT128 抗体,HIV-1 表面タンパク質全体(gp120 及びgp41)と別の抗体が結合する巨大な結晶構造 (PDBID: 5C7K)が昨年発表された.これまで対象にしていたPGT128抗体―gp120間の結合や複合体の立体構造に他の因子(gp41)がどのように影響を及ぼすのかを明らかにしていく.本研究で対象にしているPGT抗体関連の結晶構造は,水分子の情報が不十分なものや,全く含まれていない構造である.PGT抗体―糖タンパク質複合体構造の分子内の水分子を配置し,水分子が抗体―抗原相互作用に与える影響も併せて考察する.このように,前年度に比べ,さらに大きな抗体ー抗原複合体を対象に,且つ水分子を考慮することにより,系の原子数が激増する.計算能力の増強が必要になることが予測されるため,新規ワークステーションを購入する.「生体分子機能の微妙な違いを生み出している」と考えられている糖鎖による認識が,抗原-抗体反応においてどのように,且つどの程度機能しているか,溶媒である水分子の効果を考慮して解明する.ここまでで得られた結果を,国内外の学会(日本糖質学会年会,日本化学会年会,Theory and Applications of Computational Chemistry (TACC 2016))で発表すると共に学術雑誌に投稿する.
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次年度使用額が生じた理由 |
国内の学会発表を3件予定して旅費の予算を計上していたが,そのうち2件が東京で開催されたため,その分の旅費相当分が次年度使用額となった.
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次年度使用額の使用計画 |
次年度は研究対象の系を拡張する計画としており,計算資源の補強のため,バックアップ電源を搭載した並列計算機(インテルXeonプロセッサ搭載)を購入予定である.
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