研究実績の概要 |
今年度は,ヒト免疫不全ウィルス(HIV-1)の表面に存在する糖タンパク質に複数の糖鎖を介して結合する三つの中和抗体(PGT121, 128, 151)に対して,本研究の手法を適用した. この糖タンパク質とPGT128抗体の複合体で,タンパク質部分の構造が少しだけ異なる二つの結晶構造 (PDB ID: 5C7K,5JSA)をもとに分子動力学計算を行った後,時間変化におけるスナップショット構造について大規模量子力学計算を行った.抗体―糖鎖間の相互作用を解析したところ,二つの糖鎖(Asn301, Asn332糖鎖)が主に抗体との結合を担うこと,Asn295糖鎖とAsn301糖鎖の糖鎖間相互作用が,時間変化の中でその強さにばらつきがあるものの,Asn301糖鎖を介して抗体への結合に寄与していたこと,部分構造の違いが抗体―糖鎖間相互作用に与える影響は小さかったことが明らかになった.これらの結果について,国際会議(WATOC2017)及び第36回日本糖質学会年会で発表した.さらに,生体内の水分子の影響を確認するため,水分子を露わに考慮したスナップショット構造を用いて大規模量子化学計算を行い,解析したところ,糖鎖-糖鎖間相互作用がより顕著になること等が明らかになり,この結果を日本化学会第98春季年会にて発表した. また,PGT151抗体はPGT121, PGT128抗体とは違い,ガラクトースで修飾された複合型糖鎖に強く結合するという糖鎖結合実験結果が報告された.そこで,PGT151抗体と複合型糖鎖の複合体の結晶構造をもとに,この糖鎖とPGT121, PGT128抗体の各複合体構造を作成し,これらに対して大規模量子化学計算により比較解析したところ,糖鎖認識において重要な役割をしている抗体のアミノ酸残基を特定することができた.この結果を第11回分子科学討論会にて発表した.
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