研究課題/領域番号 |
15K00410
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研究機関 | 金城学院大学 |
研究代表者 |
中川 節子 金城学院大学, 生活環境学部, 教授 (50050711)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 分極力場 / 分極率 / 点電荷 / 誘起双極子 / 核酸 / DNA / ブロックモデル / ブロック分子 |
研究実績の概要 |
分子力学シミュレーションは、タンパク質・核酸など生体高分子の動的構造を研究する上で有力な方法である。生体系のように電荷をもつ不均一な系では、分極力場を使用して計算精度を上げる必要があると考えられる。特にDNAのようにリン酸イオンを多数含む高分子系では、原子の電荷と分極率を切り離して設定することが難しく、高い精度を持つ分極力場を構築することができていない。本研究では、電荷と分極率をブロック単位で求め、DNAに適応可能な実践的な方法を提案検証し、十分な精度を持つ分極力場の開発を行う。 研究は三つのステップで進めている。1.分極ブロックモデルポテンシャル(PBMP)を構築し評価するためのプログラムの改良・拡張を行う。2.DNAを構成するヌクレオチドに対して、PBMPのパラメータである点電荷と原子分極率を決定する。3.決定したパラメータを用いて、相互作用エネルギー等の再現性を評価する。 PBMP開発のための三つのプログラム(ESPFIT、POPFIT、IDFF)の開発は終了した。ESPFITは、量子化学計算で求めた分子表面の静電ポテンシャルを再現するように、分子の点電荷を最適化するプログラムである。POPFITは、量子力学計算で求めた分子表面の分極一電子ポテンシャルを再現するように、分子の原子分極率を最適化するプログラムである。IDFFは、決定した点電荷および原子分極率パラメータを用い、エネルギーを求めるプログラムである。結合、結合角、ねじれ角及びvdw項のパラメータは、CHARMMの力場を使用する。 分極ブロックモデルのパラメータの決定においては、ヌクレオチドをリン酸基、デオキシリボース、塩基部分に分けた3ブロックモデルの開発を行った。決定したパラメータを用い、トリヌクレオチド二量体の相互作用エネルギー及びヌクレオチドの回転エネルギーの評価を行い良好な結果が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
PBMP開発用の三つのプログラムが利用できるようになったため、ステップ2に進んだ。DNAを構成する4種のヌクレオチドについて、分極ブロックモデルのパラメータの決定を行った。ヌクレオチドをリン酸基、デオキシリボース、塩基部分に分ける3ブロックモデルを採用した。ブロック分子の点電荷および原子分極率を最適化した。参照とする量子化学計算には、MP2/6-311++G(2d,2p)を用いた。 決定したパラメータを用い、相互作用エネルギー等の再現性を評価するステップ3に進んだ。再現性を評価するには、いくつかの相互作用モデルを用い、精度の高い量子化学計算を行い、参照とするデータを揃えておく必要がある。トリヌクレオチド二量体のような大形の分子の量子化学計算は、多大の計算時間を要する。このため、ステップ2のパラメータ開発と並行して、大形分子の量子化学計算を開始した。計算は、MP2/6-31+G*レベルで行っている。現在までにCCC-GGG及びGAC-GTCの相互作用エネルギーの計算結果がほぼ出揃った。3ブロックモデルで決定したパラメータを使用し、PBMPでエネルギーを算出した。計算にはプログラムIDFFを用いた。トリヌクレオチド二量体の相互作用エネルギーの結果は、量子化学計算をよく再現していた。双極子モーメントや分子表面の静電ポテンシャルの再現性も良かった。 3ブロックモデルでは、ヌクレオチド内の二つの結合軸(デオキシリボースの4’と5’のC-C結合及び1’のCと塩基間のC-N結合)で分けた三つのブロック間の相互の誘起分極を取り込むことが可能である。dCMPを用い、二つの結合軸まわりの回転によるエネルギー変化や電荷分布変化について、量子化学計算結果と比較した。回転による分極エネルギーの変化はもともと少ないことが分かるとともに、分子表面の静電ポテンシャルの再現性は良いことが分かった。
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今後の研究の推進方策 |
決定した3ブロックモデルのパラメータは、CCC-GGG及びGAC-CTGの相互作用エネルギーとdCMPの回転による電荷分布を比較的良く再現するという結果が得られているので、更に幾つかのモデルについて再現性の検証を行う。 CCC-GGGの構造は、A型のDNAらせん構造を持つX線結晶構造解析データ(PDB-ID 1ZF1)より構築した。塩基対の水素結合の数は9本である。GAC-CTGの構造は、B型のDNAらせん構造を持つ解析データ(PDB-ID 1ZF7)より構築した。水素結合の数は8本である。A型のDNAらせん構造で8本の水素結合を有するGGT-CCA(PDB-ID 1ZF8)及びB型のDNAらせん構造で7本の水素結合を有するAAC-TTG(PDB-ID 1ZF0)を検証モデルに加える。更に、これら4種のトリヌクレオチド二量体モデルにおいて、各リン酸基に対イオンとしてNa+が配位しているモデルについても計算を追加する。対イオンが無いトリヌクレオチド間の相互作用は強い反発を示すが、対イオンの存在下では安定化する。実際の生体システムではDNAの周りには対イオンと水分子が存在するが、水のない二つの極限モデルでPBMPが量子化学計算結果を再現するかを検証するのは重要であると考えられる。また、A型とB型や、塩基対の水素結合数の違いの検証も必要である。 回転エネルギーの再現性については、dAMP、dGMP及びdTMPの計算を追加する。異なる塩基でも良好な再現性があるかを検証する。これにより、3ブロックモデルがDNAのコンフォメーション変化に対応できるパラメータであることを示すことができる。 次に、トリヌクレオチド単量体を取り上げ、水分子が様々な方向から近接する場合の相互作用エネルギーについて検証する。これにより、3ブロックモデルが水溶液中でも有効であることを示すことができる。
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