研究課題
既存の公共データベースにはヒトのスプライシングアイソフォーム(SI)が10万以上登録されているが、その大多数は機能が実験により明らかにされていない。また多くのSIで、そもそも機能を持たない可能性が指摘されている。そこで、機能未知のSIが生体内で機能を持つかどうかを推定すること、さらに、機能部位が欠如したり立体構造が不安定化するにも関わらず機能を持つと推定されたものについては、それらの機能部位および結合する低分子を推定する方法を開発することを目的として、平成28年度は以下のことを行った。機能未知SIの機能性を推定するために、機械学習(配向ブースティング)を用いた手法を開発した。この時、平成27年度までの解析では学習するデータ中に機能を持たないことがわかっているSIがほとんどないことが課題であったため、PUアルゴリズムと呼ばれる機械学習法も併用してこの課題に対処した。開発した手法を標準的ではないSIに適用した結果、そのうちの約3割のSIのみが機能性を持つと判定され、多くのヒトのSIが機能的に意味がない可能性が示唆された。平成27年度に公開を始めたHet-PDB Navi2に改良を加え、立体構造データと低分子種を指定すると結合部位を予測できるようにした。また、ベクトルマッチ法によるタンパク質―低分子リガンドドッキング法を開発し、127種類の低分子に対する標的タンパク質への結合低分子予測の性能について評価した。その結果、既存の方法よりも高い予測性能を持つことがわかった。昨年度構築した、健常人全エクソンバリアントデータ解析システムを用いて、各SNVの立体構造および機能部位における特徴についての解析を行なった。その結果、SNVと機能部位との間には機能部位予測に使えるような明確な関連性が見られないことがわかった。
3: やや遅れている
機能未知SIの機能性評価法の高度化においては、機械学習のアルゴリズムを工夫することで、平成27年度に課題として残った機能を持たないことが実験的にわかっている例が少ないことに対処できるようになり、当該年度までの計画に沿って進んでいる。低分子結合部位予測の高精度化においては、当初予定してた機械学習に基づく方法ではないものの、SIに結合する低分子を予測する方法を開発でき、既存の手法に比べて良い結果が得られることがわかったため、ほぼ計画に沿って進められている。一方で、SNVの情報を使った機能部位予測の開発においては、平成27年度に構築したシステムを用いた解析から、SNVと機能部位の間には機能部位予測に使えるような明確な関連性が見られないという、当初の作業仮説とは反した結果が得られており、予測法の開発には至っていない。また、機能を持つと推定したSIの実験的な検証を行うところについてはまだ準備段階にある。これらのことを勘案し、「やや遅れている」と判断した。
機能未知SIの機能性評価法の高精度化においては、開発した評価法からタンパク質として発現していることが確認されているSIの1/4が機能性を持たないと判断されるなど、直感に合わない結果も得られている。そのため、機械学習の学習データやパラメータの見直しが必要であると考えられる。見直しの際には、学内の機械学習の研究者に意見を仰ぎ、効率的に行えるようにする。低分子結合部位予測の高精度化においては、機能性評価法で機能性を持つと推定された機能未知SIに対して、予測精度が良かった金属イオンもしくは核酸系の低分子の結合性予測を行い、予測結果の検証を開始する。この時、学内の共同研究者と綿密に連携し、より検証を行いやすい機能未知SIおよび低分子に対して行えるようにする。SNVの情報を使った機能部位予測の開発においては、SNVが機能部位にはあまり見られなかったことから、機能部位そのものではなく、選択的スプライシングを受けるエクソンを単位として、SNVの頻度と機能性についての関連を解析する。
機能未知SIの機能性評価法についての論文を現在執筆中であるが、当初計画よりも遅れており、平成28年度中に論文校閲および論文投稿を行うことができなかった。そのため次年度使用額の差が生じている。
機能未知SIの機能性評価法についての論文発表の際にオープンアクセスにするために使用する。
すべて 2017 2016 その他
すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件) 学会発表 (7件) 備考 (3件)
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