研究課題/領域番号 |
15K00412
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
伊藤 將弘 立命館大学, 生命科学部, 教授 (50388112)
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研究分担者 |
亀村 和生 長浜バイオ大学, バイオサイエンス学部, 准教授 (00399437)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | O-GlcNAc修飾 / 進化トレース / ゲノム進化解析 / 糖鎖 / 系統プロファイル |
研究実績の概要 |
O-GlcNAc修飾を受けるアミノ酸残基は、同一または近傍の残基がリン酸化されるなどリン酸化と広く相互作用して生命現象を制御している。しかし、何百種類ものキナーゼやホスファターゼによって行われるリン酸化とは対照的に、O-GlcNAc修飾はO-GlcNAcの付加を触媒するO-GlcNAc 転移酵素(OGT)と付加されたO-GlcNAcの切断を触媒するO-GlcNAc分解酵素(OGA)の2つの酵素によって調節されている。OGTの認識する配列には特徴が見られるが、絶対的なコンセンサス配列は見つかっておらず、どのようにしてOGTが修飾残基を選択しているのかについては不明な部分が多い。OGTが多くの異なるタンパク質の修飾を行うことができる理由として、他の多様なタンパク質と結合することによるものであると示唆されており、O-GlcNAc修飾を受ける配列にはいくつかのパターンがあると推察される。 天然変性タンパク質(IDP)は、単独では立体構造を作らない天然変性領域(ID領域)を持つ。IDPは真核生物の核に豊富に存在し、転写、翻訳、および細胞周期制御を含む重要な細胞機能に関与している。また、ID領域においてタンパク質のリン酸化は多く起こることが知られている。 O-GlcNAc修飾とIDPは細胞内局在および機能の面で共通点を有しており、ID領域に多く見られるリン酸化との相互作用が知られている.そこで本研究では、O-GlcNAc修飾の獲得の過程を明らかにすることを目的としてO-GlcNAc修飾を受ける配列をO-GlcNAc修飾残基の保存度の観点からいくつかに分類し、O-GlcNAc修飾とリン酸化、ID領域の関わりを解析した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
O-GlcNAc修飾タンパク質の進化解析から、はじめにOGTの獲得によるO-GlcNAcを付加する機能の獲得が考えられる。しかし、OGTと同時期に出現したタンパク質自体が少なく、その中で残基が保存されO-GlcNAc修飾されると推定される残基は少量である。よって、この時点では数少ないタンパク質をO-GlcNAc修飾していた、またはOGTに相同なタンパク質に機能の同一性まではなくO-GlcNAc修飾が行われていなかったと考えられる。次にOGAの獲得によってO-GlcNAcを適切に取り除くことが可能になってダイナミックな調節が行えるようになり、多数のタンパク質がO-GlcNAc修飾を受けるようになったと推察される。また、ダイナミックな調節が行えるようになったことおよび進化軸におけるID領域比率の増大により構造をとらないID領域による機能発現の調節が重要度を増し、リン酸化との相互作用も加わることでタンパク質の高度な機能調節が可能になったと推察された。
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今後の研究の推進方策 |
線虫 C. elegansは、体長約1.5 mmでライフサイクルが3日からなる生き物で、1998年に多細胞生物としては初めて全ゲノム配列が決定されており、そのすべての細胞系譜が唯一解明されているモデル生物である。 本研究では、線虫C. elegansを用いて、O-GlcNAc転移酵素変異体と天然変性領域における修飾の関係を、比較定量トランスクリプトーム解析(RNA-Seq解析)を進めることで理解する。 また、時空間的予測法の解決には膨大な生物学実験から得られたO-GlcNAc修飾データが必要となる。質量分析によるO-GlcNAc修飾サイトのハイスループット解析は難しいことから、過剰発現系でのmass-tagによる系が確立した場合、変性領域をもち、かつO-GlcNAc修飾されると予測したタンパク質(群)とそうでないと予測したタンパク質(群)について、mass-tag 法によりO-GlcNAc修飾ドメインの有無と修飾レベルの違いを比較し、統計評価することでO-GlcNAc修飾データ拡充が可能となる。
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