本研究はE/I バランスの異常がどのように神経回路情報処理異常を起こしているかを明らかにすることを目的としている。我々はすでに抑制性信号の高頻度入力(γ周期)が低周期(θ周期)の振動的神経活動に重要なことを見出しており,これが,E/I バランス失調の主要な神経回路機構であると考えた。 これ正しければ E/I バランスが振動制御と領野間の協同を乱すことで脳発生発達に関連する精神疾患の病態を引き起こすと説明することができ,脳情報処理機構の解明,病態解明に結びつく。 海馬CA1野でのθ-γ周期の引き起こす短期可塑性にE/Iの精緻な活性化制御が関与することを示し,初年度に論文として発表した。E/I失調を主な原因とする病態モデルとしてバルプロ酸投与モデルでのさらなる検証を進めていたが,このθ-γ周期に関する短期可塑性現象に関しては顕著な差を見出すことができなかった。そこで,この現象から引き起こされる可塑的変化の抽出に焦点を絞って研究を進めた。一方,他の脳領野でのE/Iバランスの検討のため,新たに広視野の計測系を構築した。これを使って,海馬と関連する嗅内野(EC),嗅周囲皮質(PC)でのE/Iバランスの失調と神経興奮伝播パターンの変化を調べた。また,前帯状皮質(ACC)の興奮伝播パターンも調べることができた。これらはまだバルプロ酸投与モデルでの実際の病態を説明できるだけの知見を集めきれていないが,それぞれ興奮伝播パターンとE/Iバランス失調の関連について基礎的なデータを収集できたと考えている。どちらも投稿準備中である。これらの基礎的なデータからの,バルプロ酸モデルでのズレを計測できるようになれば病態の解明に結びつく。また,E/Iバランスの脳内での重要性が明らかになる。また,この過程で計測系の自動化を実現し,スループット性が高い実験系を実現できた。今後様々な研究に応用可能である。
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