研究課題/領域番号 |
15K00415
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研究機関 | 東京都立産業技術高等専門学校 |
研究代表者 |
山本 昇志 東京都立産業技術高等専門学校, ものづくり工学科, 教授 (70469576)
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研究分担者 |
津村 徳道 千葉大学, 大学院融合科学研究科, 准教授 (00272344)
原 直人 国際医療福祉大学, 保健医療学部, 教授 (30265699)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ストレス / 生体計測 / 非侵襲 / 眼球運動 / 短期記憶 / 行動監視 |
研究実績の概要 |
本研究提案では「心の病」が自律神経のバランスの崩れから発症することに注目し,最も神経系が集中している眼球の運動緩慢検出を特徴としている.また,表情の弛緩や呼吸感覚の変化等も取り入れることにより,ストレスを確実に診断可能と考える.我々は成熟社会が乗り越えるべき先進国病に対して,世界に先駆けて予兆が可能な早期発見手法の開発を行うことを目標としている.平成27年度はストレスが大きく影響を及ぼす自律神経系の働きに着目し,眼球運動や心拍変動などの評価を行った.この結果は昨年の報告通り,自発的な視線移動の判断過程において,ストレス負荷がその判断を鈍らせることを明らかにした.これにより,テレビモニタ等で誘導的な視線移動を発生させたときの反応を測定すれば,ストレス具合を定量化できる可能性を得た.本年度(平成28年度)はストレスが行動や記憶に与える影響について検討を行った.記憶はその持続時間に応じて短期と長期に大別されるが,特に一時的な記憶である短期記憶は海馬を含む脳幹の働きに影響されることが指摘されている.そのため,短期記憶の能力を推し量ることで,間接的ではあるが,ストレス定量化できる可能性がある.一方,ストレス具合が頭部移動の有無にも関連がある可能性をH27年度で確認しているため,視線移動に伴う頭部の移動も正確に捉えることができるシステムを構築した.また,心拍変動に関しては分担者協力のもと,カメラによって非接触で計測できる手段を確立した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
H28年度は主にストレスによる海馬の影響を短期記憶力で測る手法に挑戦した.ストレスが蓄積されると脳幹における“知的な”行動の制御が低下することがH27年度の研究でも明らかになっている.よってH28年度は同様に脳幹部分が司る短期記憶に着目している.外部感覚器で捉えられた刺激は直接,大脳で記憶されるわけではなく,一旦,脳幹部分,特に海馬に蓄積される,いわゆる記憶の二重貯蔵モデルが提言されている.そのため,短期記憶力を探ることでストレスとの関連が明らかになる可能性を持つ.ところが,この短期記憶力を定量的に計測する手法が確立されていない.従来から系列位置効果を用いた方法が提案されているが,個人的好みが記憶力に影響を与えやすいこと,対話形式のために1人ではなかなか行えないことが欠点と指摘されてきた.そこで本研究では視線検出装置とランダムな位置に発生する色票表示から,単独で実施可能な視覚的な系列位置検査方法を開発した.表示装置ではカテゴリカルカラーに基づく代表色を用いた色票を,色と出現位置をランダムにしながら表示することができる.被験者は順番で5色分を記憶していくが,そのときの位置と順番は視線検出装置が記録していく.3秒の空白時間の後に1つの色票の色のみを変化させたときの違いを回答してもらうが,その順番と正誤をコンピュータが読み取ることで,順番に関する記憶能力を定量化することができる.現状としては健康な被験者で従来の系列位置効果と同様の検査ができることを確認した.今後はストレス負荷をかけ,その有無で能力が変化するかを確認する. また,H28年度には頭部の動きを監視できるシステムの構築も実施した.通常,視線移動には頭部の移動も連動して生じるが,ストレス負荷がかかると人間は最小限の動きを優先する傾向が指摘されている.そこで,視線検出時に頭部の移動量も正確に計測できるカメラシステムを構築した.
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今後の研究の推進方策 |
いままで,眼球運動に起因する二種類のシステムと頭部の動きに関するシステムを構築したため,H29年度ではこれら異なるシステムの連携により,ストレスの定量化を推進する.課題はストレスの与え方であり,従来はクレペリン検査を行っていた.しかしながら,クリペリンはあくまでも知的能力を測る繰り返し計算課題であり,その疲労度やストレス具合が十分に考察はされていない.これに対して,海外では単純な複数数字の暗記や複数の難解な質問形式などの手法が提案されており,これらを調査しながら,定量的な評価に有効なストレスの与え方を検討していく.
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次年度使用額が生じた理由 |
購入物品が複数社見積もりの結果,予想より安く購入することができたため.
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次年度使用額の使用計画 |
今年度進めていくデータ解析のための学生謝金や,成果を国際会議で発表したり論文投稿する費用として活用する.
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