潰瘍性大腸炎とは大腸にびらんや潰瘍が形成され,下痢や種々の程度の全身疾患を呈する原因不明の難病である.本疾患がメディア上でどのように報道されているかを調べるためにメディアとして読売新聞を選択し, 2008年1 月1 日から2017年6 月30日の9 年6 カ月にわたる新聞記事を検証した. その結果,以下のことが明らかになった.1.ほとんどの記事で潰瘍性大腸炎の概略について適切かつ簡潔に解説されていた.とくに連載記事「病院の実力」では,比較的詳細な症状や治療法,治療施設が紹介されていた.また病因や新規治療法に関する研究成果も紹介されていたが,事実を誇張し研究の進歩を不必要に煽ったり研究の限界を捨象して過度に単純化したりするなどの質の低い報道の特徴はみられなかった.2.潰瘍性大腸炎の患者として安倍晋三首相の健康状態・就業状態が詳しく報道されていた.これらには本疾患の無理解や偏見から生じる発言を列記し,患者を傷つけ社会に誤解を生じていることを指摘した記事がみられる一方で,安倍首相の病状を強調し本疾患の否定的な印象を暗示した記事がみられた.この記事は本疾患の障害を誇張かつ揶揄し,患者の社会的立場を毀損しかねない質の低い報道と思われた.また新薬によって劇的に病状がコントロールされたと肯定的に紹介された記事が多くみられたが,これらの記事中には薬物療法で改善がみられない重症例や外科的処置が必要となる例に言及されていなかった.本疾患への無理解や誤解を惹起しない質の高い報道のためには,障害の程度を適切に記載すると共に薬物療法にてコントロール可能な例があること,重症例では外科的処置が必要となることを記載することが望ましいと思われた.3.同じ炎症性腸疾患としてクローン病が紹介されることが多かった.4.潰瘍性大腸炎が難病で医療費の助成が行われていることが指摘されていた.
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