企業における技術累積と企業価値の関係を定量的に検証した。企業における研究開発投資の意思決定に関しては、技術累積と技術の多角化の二つの方向性がある。我々の知る限り、先行研究では技術多角化が扱われることが多い。本研究では、これまで扱われることが少なかった技術累積に着目して、企業価値との関係を大規模データに基づき実証的に明らかにしようとした。具体的には、特許引用ネットワークを技術累積の指標として、Hall et al.(2005)による社内引用の考え方を発展させて、三者関係を形成した社内三者閉包(Triadic Closure)を用いた。分析対象は、これまでの研究でも用いてきたForbes Global 2000にランクインした情報通信企業の51社を対象とした。特許データは、米国特許庁(USPTO)に出願された特許データを用いている。企業価値の代理変数としては、Tobin's qを算出して用いている。結果としては次のとおりである。日本企業を除く企業を対象にした場合には、社内三者閉包(Triadic Closure)」と企業価値の間には統計的に有意に正の相関関係が認められた。これに対して、日本企業を対象とした場合には、両者の間には統計的に有意に負の関係が示された。対象企業によって異なる相関関係が認められたことは、技術累積に関する先行研究では示されなかった含意がある可能性がある。ただし、その含意については今後の研究課題として残された。この研究は、これまで研究代表者とし共に本研究を行ってきた八木により八木(2019)として発表された。
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