研究課題/領域番号 |
15K00477
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研究機関 | 山口短期大学 |
研究代表者 |
呉 靭 山口短期大学, 情報メディア学科, 准教授 (70708015)
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研究分担者 |
乾 秀行 山口大学, 人文学部, 准教授 (10241754)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 言語系統分類 / 言語系統樹 / 分子系統学 / 基礎語彙 / 言語間距離 / 音声記号 |
研究実績の概要 |
まずは分子系統学における進化系統樹の作成手法および分子系統学のツールを言語系統樹の作成に応用することについて調査を行った。分子系統学のツールをそのまま言語系統樹の作成に応用することの問題点が浮かびあがり、数理モデルによって言語間距離を算出し、系統樹の作成(可視化)は既存ツールを用いて行うことにした。系統樹の可視化およびその他の計算用ツールとしては「R」を選定することにした。 次に、文字列類似度に基づいた基礎語彙の類似度および言語間距離の計算の定式化を行った。インド・ヨーロッパ語族の一部の言語を用いて近隣結合法による言語系統樹生成の実験を行い、言語学者が行う言語系統分類との異同について考察を行った。 さらに、基礎語彙の類似度の計算において発音の近さを考慮するため、2つの角度から検討を行った。一つは基礎語彙データの作成における音声表記法の見直しの角度からである。発音の近さの基準として、従来手法では調音の特徴に基づいているが、言語音の周波数スペクトルに基づいたクラスタリングによる方法を提案し、音響音声学の角度から発音の近さの基準について検討を行った。もう一つは編集距離を用いた基礎語彙の類似度の計算において、基礎語彙の表記として使われている音声記号間の編集操作のコストに対して重みを考慮することである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度の目標として掲げた 「(1) 新たな基礎語彙データの音声表記法の定義、(2) 基礎語彙文字列の類似度の導入による言語間距離の計算モデルの定式化、(3) 発音の近さを考慮した基礎語彙の類似度に基づく言語間距離の計算モデルの開発」については研究が進展し、国際学会や研究会で成果の発表も行っており、順調に滑り出している。「(4) 基礎語彙データの調査、収集、整理」については、基礎語彙の既存資料の調査を行った結果、国内において基礎語彙の資料が入手できる言語は限られており、データとして整理するには資料不足であることが問題点として浮かびあがってきた。全体としては、おおむね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
「発音の近さを考慮した基礎語彙の類似度に基づく言語間距離の計算モデルの開発」として、現段階では、音声記号間の相関関係を定量化する値としてφ係数を用い、それを音声記号間の編集操作のコストとして使うことについての調査・研究の段階にあるが、当面はこの研究を進めていく。そのうえで、他の統計的手法による音声記号間の相関係数の定量化指標または統計的手法以外の音声記号間の重み係数の求め方について調査を行い、それらの適合性について検討していく。基礎語彙データについては、さらなる調査を行い、資料不足等で基礎語彙データの作成が困難な場合の代替案を考える。また、基礎語彙と併せて、その他の言語属性データの調査、収集、整理の作業を実施していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額として、研究代表者の呉(山口短期大)には21万円、研究分担者の乾(山口大)には30万円、とそれぞれ生じている。当初は基礎語彙の資料調査・収集(研究分担者の乾)およびデータ整理等(研究代表者の呉)に予算を割り当てていた。研究分担者の乾が基礎語彙の資料をすでに一部所持しており(乾は以前からこれらの資料を所持していたが、これらの資料以外にも多くの言語の資料があることを期待し、調査・収集しようとしていた)、調査する必要がなくなったことや新たな資料の収集が行えなくなったことにより、予算を使用する必要がなくなった。また、上に述べた基礎語彙に関する資料不足の問題点が出てきたことにより、データ整理等の作業はさらなる調査を経てから決めるとしたため、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
平成27年度において生じた次年度使用額は、 (1) 基礎語彙データ作成に関するさらなる調査等、 (2) 基礎語彙データの作成が困難な場合における代替案、(3) 基礎語彙以外の言語属性データの調査、収集、整理、を中心に使用する予定。なお、研究体制を強化するため、これまでも共同して研究を実施してきた松野浩嗣氏(山口大)に研究分担者としての参加を要請し、承諾を得た。松野氏の参加によって、研究をよりスムーズに進展させていくことを期待したい。
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