研究課題/領域番号 |
15K00512
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研究機関 | 関西大学 |
研究代表者 |
松島 恭治 関西大学, システム理工学部, 教授 (70229475)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 3次元ディスプレイ / ホログラフィ / 計算機合成ホログラム |
研究実績の概要 |
現在実用化している3次元映像技術では,人が奥行きを知覚する際に用いている両眼視差・輻輳・調節・運動視差のうち,両眼視差と輻輳しか正確に刺激しない.そのため,知覚した距離に矛盾が生じ,特に,輻輳と調節による距離感が一致しない輻輳・調節矛盾はこのような不完全な3次元映像における違和感や疲労感の原因と言われている. 半世紀以上の歴史を有する古典的な光学ホログラフィでは,実在の物体からの光波を参照光との干渉によって記録し,その干渉縞パターンからの回折によりオリジナルの物体光波を再生するためこのような知覚矛盾が生じない完全な3次元画像が原理的に得られる.しかし,光学ホログラフィは実在する物体が必要な写真技術であり,非実在の物体や数値データから像を形成することができなかった.干渉縞パターンを計算機で発生するコンピュータホログラフィでは,実在しない物体の光波を再生する計算機合成ホログラム(CGH)を作成することができるため,実在,非実在を問わず感覚矛盾のない完全な3次元映像を再生することができる. 研究代表者らは,近年,コンピュータホログラフィにより数100億画素を超える超高解像度のCGHの作成に成功し,これらのCGHでは,現在実用化している3D映像技術では不可能な深い奥行き感のある3D映像が無矛盾で再生できることが示している.しかし従来,このような高解像度CGHでは赤や緑など単色の再生像しか得られない問題があった. そこで本研究課題では,主として液晶ディスプレイと同様のカラーフィルタ方式により高解像度CGHのフルカラー再生を目指している.また,別の方式として波長選択性を有する複数の干渉縞を重ねて形成する積層方式も試みる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
提案方式では,1枚のホログラム干渉縞を空間的に領域分割し,それぞれにRGBの三原色に相当する波長で計算した干渉縞を形成する.さらに,これらの領域にその設計波長に応じたカラーフィルタを貼り合わせることにより,設計波長に対応する波長での再生像を形成し,それらが重畳してフルカラー3次元像を再生する. 干渉縞はガラス基板上の金属膜のパターンとして形成した.このとき,従来の単色CGHでは,高反射率のガラス基板側から照明光を入射していたが,ガラス基板にカラーフィルタを装着した場合,干渉縞とカラーフィルタが密着しないため,やや反射率の劣る金属膜側から再生照明光を入射する構造とした.また,カラーフィルタの位置合わせ誤差の許容度を上げるため,ガードギャップと呼ぶ保護エリアを設けた.ただし,液晶パネル等に用いられるカラーフィルタでは,その波長帯域が広く大きな色収差が生じる.そこで,本研究では,蛍光体を用いた一般的な白色LEDではなく,異なった中心波長のLEDを一つに素子に集積したマルチチップLEDを照明光源として用い,不完全なフィルタ特性を補った. 高価な製造プロセスが必要な液晶用カラーフィルタでは,フィルタパターンの最適化を自由に行うことができないことから,本研究では当初カラーリバーサルフィルム出力サービスを利用してフィルタを製作し,高解像度フルカラーCGHを試作した.しかし,リバーサルフィルムによるカラーフィルタは透過率が低く,十分に明るいフルカラー映像を再生することができなかった. そこで,カラーフィルタの透過・反射率や金属膜の反射率に基づいた物理シミュレーション技術を開発した.このシミュレーションによりホログラムに適した特性を有するカラーフィルタを設計し,実際のカラーフィルタを特注した.このカラーフィルタを装着した高解像度ホログラムを試作したところ,良好な再生像を得ることができた.
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今後の研究の推進方策 |
カラーフィルタを用いたフルカラーCGHの再生が予定通り確認できたことから,今後は次の研究項目を実施していく予定である. <再生像の品質向上> 平成27年度の試作で得られた再生像は,奥行きが深く美しいものであったが,主として色収差によるものと思われるボケがやや見られた.そこで,このようなボケを軽減する設計波長の最適化技術に取り組む.また,従来は0.8μmピッチの画素によって金属膜干渉縞を形成していたが,それでは回折角度が足りず,再生像に生じる共役像などの不要像を本来の3次元像から十分に分離することができなかった.そこで,今後は作成プロセスを0.6μmピッチに微細化する.また,それに応じたカラーフィルタパターンの最適化等を進める. <体積型フルカラーホログラム転写技術> 高解像度のCGHは,その計算時間や作製時間が数時間,大きな物では数日に及ぶため,そのままでは量産には向かない.また,その再生には一定の要件を満たした再生光源が必要であるため,それが展示における制約となる.体積型ホログラムと呼ばれるタイプのホログラムでは,再生光源の要件が大幅に緩和されるが,体積型ホログラムとしてCGHを直接製作するのは容易ではない.そこで,平成27年度に開発した方式のフルカラーCGHを原版として,それを体積型ホログラムに転写する技術を開発する.転写は短時間で終わる見込みであるので,これにより量産への道も開かれる. <積層型フルカラーホログラム> 平成27年度に開発した方式では,干渉縞が分断され,それが再生像品質劣化の一つの原因であると考えられるため,フルサイズの干渉縞を3枚用いる積層型のフルカラーホログラム製作技術を開発する.このとき,上記の転写技術を応用することにより単色の3枚の体積型ホログラムを作成し,それを重ね合わせる手法を試みる予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
研究成果が高く評価された結果,平成27年度前半に海外(アメリカ)の学会から招待講演の依頼があり,予定外の海外出張があった.そのため,年度後半に研究費が不足する恐れがあり,30万円の前倒し支払請求を行った.しかし,カラーホログラムの試作が順調であり,リバーサルフィルム出力サービスを想定していたほど利用する必要がなかったため,次年度使用額が生じた.
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次年度使用額の使用計画 |
次年度使用額は,翌年度分として請求した助成金と合わせて,主として物品費として使用する予定である.この物品費としては,積層型転写ホログラムの材料であるフォトポリマーやホログラム乾板の購入費用が挙げられる.
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