研究課題/領域番号 |
15K00515
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
松尾 基之 東京大学, 大学院総合文化研究科, 教授 (10167645)
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研究分担者 |
小豆川 勝見 東京大学, 大学院総合文化研究科, 助教 (00507923)
杉森 賢司 東邦大学, 医学部, 講師 (30130678)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 貧酸素水塊 / 東京湾底質 / 浚渫窪地 / 非破壊状態分析 / メスバウアー分光法 / パイライト / 放射能分析 / 放射性セシウム |
研究実績の概要 |
東京湾奥で特に夏期に強く発生する貧酸素水塊は、過去に浚渫した窪地が関係することが近年の研究によって明らかにされつつある。我々は過去に発生した貧酸素水塊の履歴が直下の堆積物に記録されているものと捉え、堆積物を鉛直方向に採取し堆積年代別に元素の分布と化学状態の変化を分析することで、貧酸素水塊と浚渫窪地の堆積環境との関連性を明らかにすることを目的とする。その際、福島第一原子力発電所の事故によって環境中に沈着した放射性セシウムをいわばトレーサーとして用い、堆積物内での物質移動の評価に使うことを試みる。 本年度は、昨年度に引き続き、千葉県幕張沖の浚渫窪地および平場において夏期に堆積物の採取および水中カメラによる海底面の観察を行った。この地域では毎年夏に海水の成層が確認され、貧酸素水塊が原因である青潮の発生が見られる。また、本年夏には、貧酸素水塊の時期や度合いの異なる地点との比較検討を行うために、東京湾内の他地点として横浜沖を選択して堆積物試料を採取した。採取した底質コアを鉛直方向に可能な限り細かく裁断し、redox-sensitiveな元素の状態分析および放射性セシウムの鉛直分布の測定を行った。57-Feメスバウアー分光法による状態分析の結果、横浜沖では全層でmaghemiteが観測されたが、幕張沖では表層と一部の層のみで観測された。maghemiteは酸化的環境下で生成するので、横浜沖の方が貧酸素水塊の影響が少ないことが示唆された。また、いくつかの試料については、還元的環境下で生成する硫化鉄(FeS2:パイライト)の存在が確認された。 また、放射性セシウムの鉛直方向への移動を理解することを目的に、底質粒子の多様な堆積パターンを持つ谷津干潟(千葉県習志野市)を対象とした調査を行った。その結果に基づき、底質の違いによる放射性セシウム沈降メカニズムの違いについて考察を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
堆積物を鉛直方向に採取し、堆積年代別に元素の分布と化学状態の変化を分析する計画の中で、元素の分析の部分が遅れている。これは、放射化分析や即発γ線分析を行う研究用原子炉(日本原子力研究開発機構JRR-3Mおよび京都大学原子炉実験所KUR)が、両方とも運転できない状況が長引いているためである。本研究で着目しているredox sensitiveな元素には、還元的環境で沈殿する元素(S, U)や逆に酸化的環境で沈殿する元素(Fe, Mn, Ce, Th)があり、これらの元素の定量値が現在までのところ、不足している。 一方、試料の採取に関しては、予定通り昨年度に引き続き、千葉県幕張沖の浚渫窪地および平場において夏期に堆積物の採取および水中カメラによる海底面の観察を行った。また、本年夏には、貧酸素水塊の時期や度合いの異なる地点との比較検討を行うために、東京湾内の他地点として横浜沖を選択して堆積物試料を採取した。これらの試料については、57-Feメスバウアー分光法によりFe化学種の分別を行い、redox-sensitiveな元素の状態分析に関して有用な知見が得られた。
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今後の研究の推進方策 |
貧酸素水塊の出現頻度とその強度は年によって異なるため、単年度の研究結果のみから普遍性を考察するわけにはいかない。そこで、今後も千葉県幕張沖にて堆積物試料の継続的採取を行う。また、幕張沖との比較検討を行うために採取した横浜沖の試料の継続採取は、H29年度の貧酸素水塊の出現度合いを見てから検討する。 最も遅れていた元素分析に関しては、H29年夏頃から京都大学原子炉実験所の研究炉が再稼働される見込みであり、再開の際には、遅滞なく放射化分析が出来るよう、平成29年度の京都大学の原子炉共同利用課題申請を済ませ、既に採択されている。なお、日本原子力研究開発機構の方はもう少し再開が遅れる模様ではあるが、そちらも共同利用課題申請を済ませ、既に採択されている。 状態分析に関しては、順調に稼働しているメスバウアースペクトロメーターを用い、採取した試料中の鉄の化学状態の測定を遅滞なく済ませる。特に堆積物が嫌気的環境になると硫黄化合物の還元によりH2Sが発生し、堆積物中の鉄と反応して硫化物を生成する。このことから、堆積物中の硫化鉄は貧酸素水塊の指標となりうると考えられる。メスバウアースペクトルにより得られた硫化鉄の量を過去に発生した貧酸素水塊の指標として、試料採取地点の環境変動を評価する。 最終的に、状態分析及び元素分析により得られたデータを鉛直方向に解析することにより、過去の貧酸素水塊の規模や経年的な変化を過去数十年単位で明らかにする。また、放射性セシウムの鉛直分布の解析から、堆積物を記録媒体とした貧酸素水塊の履歴の記録精度を確認することを試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は、57-Coメスバウアー線源の購入の必要がなく、もともと消耗品への支出を少なめに見積もっていたが、十分なストックもあり、特に年度末に使用する必要がなかった。また、調査船運航費に関しては、民間の基金からの助成を得られたために、本研究課題からの支出を押さえることが出来た。従って、50万円ほどの次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度は、本研究課題の最終年度に当たるため、状態分析及び元素分析により得られた多量のデータを鉛直方向に解析することにより、過去の貧酸素水塊の規模や経年的な変化を過去数十年単位で明らかにする必要がある。また、放射性セシウムの鉛直分布の解析も必要である。そのために、当初の予定より多めの資金を研究補助謝金に使用したいと考えている。
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