研究課題/領域番号 |
15K00516
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
中山 典子 大阪大学, 理学研究科, 招へい研究員 (60431772)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 海水中の金属硫化物 / ナノ粒子 / ナノサイズ分画法 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、海洋の生物一次生産に重要な役割を果たす鉄や銅、亜鉛などの微量金属元素が、酸素が十分存在する海水中にナノ粒子態金属硫化物として存在していることを、濃度、存在状態を明らかにすることから検証することである。 これまで、熱水活動により海水中へ供給される金属元素は、高濃度で噴出される硫化物と噴出口近傍で直ちに反応して硫化鉱物として沈着したり、あるいは既存の粒子に沈着して、噴出口から数百メートル以内でほとんど除去されると考えたれてきた。そのため、熱水活動により供給される金属元素の海洋全体への寄与は非常に低いと考えられ、その存在は無視されてきた。しかし、近年になり熱水に供給された微量金属がこれまで考えられていたよりも遙かに長距離輸送されている事実が示された。その要因として、微量金属元素がナノ粒子態の金属硫化物を形成することで安定に存在する仮説が提唱された。 供給源から離れて酸素が十分存在する海水中でも金属硫化物がナノ粒子態として存在していることが27年度の研究結果で明らかとなったため、次のステップとして、ナノ粒子態金属硫化物のサイズ分布が濃度と共にどのように変化していくのかを明らかにするために、28年度には次の項目の作業内容を実施した。 熱水プリューム内および外側で採取した海水試料について、それぞれの空間毎粒径サイズ別金属硫化物濃度を調べ、両者の関係を明らかにすることを試みた。これまで操作上の定義として溶存態と扱われてきた200 nm以下に存在する金属硫化物について、新たに孔径30 nmの中空糸膜フィルターを用いて濾過を行うことで、200 nm以下の金属硫化物について、より詳細なサイズ分画別空間的濃度分布を明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画当初から28年度に実施する予定であった研究項目は、ほぼ予定通りに実施されている。当初28年度に計画されていた海洋観測航海には、当年度に所属の変更があったため、乗船できなかった。しかし、27年度に行った沖縄トラフ鳩間海丘および第四与那国海丘熱水域における海洋観測で得られた試料を用いて、孔径200 nmおよび30 nmの濾過フィルターによるナノサイズ分画を行い、サイズ分画毎の金属硫化物濃度を測定することから、金属硫化物が酸化的環境下でも存在していることを確認した。また、金属硫化物が、プリューム中およびその外側で、どのような存在状態にあるのかを明らかにするために、金属硫化物濃度と粒径サイズの関係について、熱水プリュームの内側および外側での違いについて解析を行った。プリューム内から外側へ向けて、ナノ粒子態金属硫化物の濃度とその粒子サイズがどのように変化しているかについて、得られた成果は国際学会で発表済みである。限外濾過法によるより詳細なサイズ分画は、29年度に継続させて施行する予定である。また、電子顕微鏡(SEM-EDSおよびTEM)による金属硫化物の形状測定も開始しており、進捗状況としては、おおむね順調に進展したと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
28年度に施行した、沖縄トラフ鳩間海丘および第四与那国海丘熱水域にけるナノサイズ別濃度分布について解析を行う。熱水プリューム内および外側で得られたデータについて、濃度およびサイズ分布の関係から、ナノ粒子態金属硫化物の挙動を明らかにする。さらに、保存してある試料について、SEM-EDS およびTEM による形状観察を行い、形状観察および元素組成分析を試みる。 また、ナノサイズ分画法により得られた濾液を、エレクトロスプレーフーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴質量分析計(ESI-FT-ICR MS)により精密質量を求めることを試みる。質量既知の物質を含む標準溶液を用いて、質量スペクトルを得るための基礎実験を行う。次に実サンプルでの分析を試みる。顕微鏡観察および精密質量分析には、まずは塩を含まない湖沼・河川試料での実施を優先的に進める。これらの分析手法が確立した後に、実際の海水中に含まれる金属硫化物の形状や分子組成の決定に挑戦する。得られた情報についての相互関係を解析し、その動態や生成プロセスを明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
28年度に所属の変更があったため、当初28年度に計画されていた海洋観測航海に乗船することが出来なかった。そのため、当初計画していたサンプリングに必要な予算や旅費等が翌年度分として繰り越されることになったため、次年度使用額が発生した。 長期海洋観測航海には参加出来なかったものの、既に採取した海水サンプルを用いて、当初の研究計画に予定されていなかった電子顕微鏡(SEM-EDSおよびTEM)による金属硫化物の形状測定を実施しており、研究内容としては、当初研究計画をより発展させた形となった。
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次年度使用額の使用計画 |
28年度に着手した電子顕微鏡(SEM-EDSおよびTEM)による金属硫化物の形状測定をさらに発展させる。試料は、29年度に予定されている長崎県橘湾熱水域および琵琶湖で得られる海水および淡水を用いる。これらのサンプリングおよび分析にかかる経費は、昨年度使用予定の予算を使用する。 採取したサンプルは、限外濾過によりナノサイズ区分での分画を行い、それぞれの濾液中に存在する金属硫化物をEM-EDSおよびTEMにより形状測定を行う。粒径 d > 1 kDaの濾液については、フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴質量分析計(FT-ICR MS)による超高分解能質量分析により、濾液中に存在する金属硫化物の精密質量を求めることを試みる。昨年度から持ち越された助成金は、今回新たに付け加えたフーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴質量分析計(FT-ICR MS)による超高分解能質量分析の予算としても使用する。
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