研究実績の概要 |
海洋において、鉄や銅、亜鉛といった微量金属元素は、海洋生物生産に重要な役割を持つことは広く認識されている。海水中の微量金属元素は、主に大気経由でもたらされる風送塵、河川水、海底堆積物、あるいは海底の火山活動に伴う熱水活動によって供給される。これらの供給源から海水中にもたらされた微量金属元素は、海洋表層では大部分が有機配位子と結合した形で存在すると推定されているが、その実態は未だ解明されていない。近年、これまで考えられてきた有機配位子だけでなく、海水中に極微量に存在する硫化物イオン(S2-, HS-)も配位子として海水中の微量金属元素を安定化させている可能性が指摘された。本研究では、酸化的環境にある海水中の微量金属元素が、金属硫化物ナノ粒子として存在することで、除去されずに広く海洋へ輸送される可能性を検証するために、以下に示す3項目を柱として研究を進めた。①海水中の金属硫化物をナノメートルオーダーでサイズ分画するための中空糸膜フィルターを用いたナノサイズ分画法の確立、②ナノサイズ分画-GC-FPD 法により、海底熱水活動域などでのサイズ別存在形態ごとの金属硫化物濃度の空間分布を捉える、③実際にフィールド観測から得られた金属硫化物濃度の空間的分布を支配する供給・除去プロセスの寄与を定量に解明する。主要な成果として、水中の微量金属元素が、主に粒径200 nm以下の「ナノ粒子態金属硫化物」を形成し、水中での沈降・除去を免れ広く輸送されることを明らかにした。「ナノ粒子」が水圏における微量金属の物質循環に大きな役割を果たしている可能性が示された。
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