研究課題
我が国において、鉛、ヒ素についで3番目に広域な土壌を汚染している重金属クロム(総クロムと六価クロム)汚染の実態解明と環境動態、生態影響を明らかにすることを目的とし、研究を継続中である。今年度も引き続き、東京都江戸川区・江東区の旧化学工場跡および、埋め立て処分された公園での調査にくわえ、各種生態系(北太平洋の海生生物や本州の哺乳類など)での分布把握を中心に分析を行った。さらに、今年度はクロム汚染土を用いた植物の暴露実験を行い、毒性影響の評価を開始した。研究成果として、江戸川区の工場跡地(現在は都道が通っている、その側溝・雨水ます)における深刻な汚染実態が明らかとなり、とくに2015年秋季に関東を襲った豪雨後に、実際に道路表面へ溢れる深刻な汚染が発生した調査地で、六価クロムのレベルが急激に安定する現象を把握できた。ここで去年開発した堆積物など固体試料の六価クロム分析法(アルカリ融解法)を用い、地下水と併せて解析を行った結果、異常とも言えた2015年秋季の汚染上昇は年末・年始まで継続したが、2016年春季の数ヶ月で急激に減少し、例年のレベルに落ち着く様子を固相・水相間での挙動解析とともに詳しく把握できた。さらに今年度は、深刻な汚染現場から新たに野生植物種やその根圏土壌、さらに流入水を採取し、クロムを含めた約30元素の微量元素分析および六価クロム分析も行った。その結果、植物が属する科や種に特異な蓄積傾向が明らかになり、とくにクロムの蓄積が植物の必須元素蓄積に種特有な影響を及ぼしている可能性を明らかにした。くわえて、キク科のヨモギを用いた発芽試験を行い、汚染土は植物の成長に毒性影響を及ぼす可能性が示唆された。これらの成果は、一部をすでに国内学会で発表した。今後も平成29年度には各種学術会議で発表予定である。
2: おおむね順調に進展している
進捗状況は、当初の予定通り、ほぼ順調に進展している。新たに固形物中の六価クロム分析を確立したことで、印象的な“汚染復活”イベントであった豪雨に伴う濃度上昇と急激な安定を固相・液相の両面から捉えることに成功した。くわえて、今年度から新たに予定していた生態毒性の影響解明にも着手できた点は大きな進展と考えられる。現実の汚染地に生息する野生植物の種や科に特有な蓄積現象を発見でき、あわせて実際の汚染土を用いた毒性試験も開始できた。これらの進捗は研究計画とほぼ一致した順調な進展であると言える。
平成28年度に引き続き、クロムを含む微量元素約30種(同時汚染が明らかとなったカドミウムやヒ素、鉛など)による汚染の解明(随伴元素による汚染も関係させた実態把握と、液相・固相間に着目した環境動態の解明)および生態影響の評価(おもに植物の毒性影響把握)を進める。関東圏で発生している直接的な六価クロムによる地下水および底質、土壌の汚染解明にくわえ、実際に生態系で起きている生物汚染(太平洋の海生生物や我が国の大型陸上哺乳類など)の分析も引き続き進める。とくに東京都東部の汚染は平成28年度から引き続き、アルカリ融解法を併用し、植物や動物などへも影響評価を拡大させることで、研究を遂行する予定である。さらに最終年度となる次年度は、生態毒性の評価も進展させることを予定しており、研究成果は積極的に各種学術集会で発表することを予定している。
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Int. J. Environ. Sci. Technol.
巻: 14 ページ: 1-18
Environmental Geochemistry and Health
巻: 38 ページ: 679-690
人間と環境
巻: 42 ページ: 70-74