研究課題
2011年の福島原子力発電所事故により、多量の放射性セシウム (Cs-134, Cs-137) が環境中に放出された。特に、海洋環境では、Cs-134およびCs-137濃度は海水循環や他の水塊との混合により大きな経時変動を示すことから、迅速・継続的なこれら核種濃度の記録は、海洋汚染とその回復の議論に重要である。我々は、低バックグラウンドガンマ線測定法を適用することにより、日本海における低レベルCs-134, Cs-137の2011年~2016年の空間分布およびその経時変動を求めた。その結果より、日本海にも2013年より、福島起源の微弱の放射性セシウムが流れ込んでいることが明らかとなった。その傾向は2016年まで継続してみられた。日本海には福島原発からの放射性降下物の影響が小さいこと、河川経由でもたらされる放射性セシウムの寄与が小さいこと、さらに得られた放射性セシウムの、空間分布および季節変動より、その供給減の候補としては、太平洋側から東シナ海を経由して日本海にもたらされる黒潮海水が推測される。さらに議論を進めるため、日本海を中心とし溶存放射性核種、ラジウムの同位体比 (Ra-228/Ra-226比) の空間分布および季節変動を求め、研究海域の海水循環を解析した。その結果、Ra-228/Ra-226比から推測された海水循環は、福島原発起源の放射性セシウムの移行パターンを矛盾なく説明した 。すなわちCs-134, Cs-137濃度が高い海水においては、Ra-228/Ra-226比からも、黒潮の混合比が高い (セシウム汚染のない大陸側浅層海水の混合比が低い) ことが証明された。
2: おおむね順調に進展している
調査航海などによる海水試料の採取などは順調に行われた。それら試料の化学処理および放射能測定も計画通り行われた。
日本海に加え、東シナ海およびオホーツク海における、空間的・時間的に分解能を上げたCs-134およびCs-137濃度を求める。これから、福島原子力発電所事故の影響を見積もるのみならず、海水循環の指標とする。さらに海水循環の解明のため、日本海、東シナ海、オホーツク海における、空間的・時間的に分解能を上げた228Ra/226Ra比のデータベースを構築する。日本海表層の228Ra/226Ra比は福島原発起源の放射性セシウムの移行パターンを説明するほか、これら海域における有事の際の溶存汚染物質の循環パターン推測の指標とする。さらに粒子吸着性のトリウム (Th-228, Th-234) の空間的・時間的分布を求め、粒子吸着性成分の挙動を探る。
すべて 2017
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