脂肪酸標準試薬を使用してメタノール/クロロギ酸メチル(MCF)、エタノール/クロロギ酸エチル(ECF)、1-プロパノール/クロロギ酸プロピル(PCF)、2-プロパノール/PCFの各組み合わせで、室温下、反応時間5分を必須条件としてエステル誘導体化実験を進め、いずれの組み合わせでも誘導体化物が得られることを確認した。回収率は、メタノール<エタノール<プロパノールの順で高くなる傾向が見られる。また、エタノール/ECFの手法において、意図的に水を加えることで水/エタノール比を段階的に変化させ、溶媒に対する水の混合率が30%までの系でエステル誘導体化が進むことを確認した。水の混合率がエタノール量の10%程度の時には水を加えない場合とほぼ同等の回収率が得られている。一方で、特に長鎖の脂肪酸において、水の混合率が増加すると回収率の低下が生じる傾向が確認された。 本手法で誘導体化した各脂肪酸の同位体比変化を検討するために、各脂肪酸試薬の炭素同位体比と、カルボキシル基の交換性水素を排除した状態での水素同位体比を求めて同位体比が既知の脂肪酸混合試薬を作成すると同時に、分析用スタンダードとして同位体比が既知の脂肪酸メチル混合試薬を準備した。これらを使用した誘導体化実験と同位体比測定では、いずれの組み合わせにおいても水素、炭素の同位体比の変化は、測定誤差以下であることが確認できた。また、意図的に水を添加した試料では、30%までの混合率で炭素においては同位体比の変化は認められず、水素についても10%程度の混合率であれば同位体比に大きな差異が生じないことが確認された。 本誘導体化手法を用いた同位体比分析を天然試料に適用して、その有用性の検討を進めた。水素の同位体比測定では炭素と比べて多くの試料量を確保することが必要であるため、脂肪酸含有量の低い天然試料を扱う場合には、量的な問題が生じる可能性がある。
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