研究課題/領域番号 |
15K00522
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
鎌倉 真依 京都大学, (連合)農学研究科(研究院), 研究員 (40523840)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 水利用 / ガス交換 / 水ポテンシャル / 貯水能 |
研究実績の概要 |
常緑針葉樹林では、樹高とともに気孔開度を表す群落コンダクタンスが低下することが報告されている(Komatsu et al, 2003)。このことは、林齢・樹高の増加に伴って、水ストレスが気孔の閉鎖を引き起こし、やがては光合成の低下と衰退を引き起こすトリガーとなる可能性を示唆しており、常緑針葉樹の水利用特性をキー・ファクターのひとつとして見ていく必要がある。そこで本研究では、根と葉を結ぶ幹および枝の通水性に着目し、自然条件下での水ストレスの大きさの違いにより、樹木の通導系のどの部位に、どの程度の通水性の変化が生じるのかを詳細に把握するために、滋賀県大津市の桐生水文試験地に生育するヒノキ個体(樹高22 m)の幹下部(1 m)、幹上部(20 m)および枝(20 m)にICT社のステム・サイクロメータを設置し、2014年7月より水ポテンシャルの連続測定を開始した。同時に、テンシオメータによる土壌の水ポテンシャル、グラニエ法による幹下部、幹上部および枝の樹液流速度の測定も行った。さらに二週に一度、樹冠内三高度で個葉ガス交換速度およびプレッシャーチャンバーによる葉の水ポテンシャルを測定した。以上の観測から、ヒノキ個体の蒸発散量を制御する内部メカニズムの解明を目的とした。 水ポテンシャルは、土壌>幹>枝>葉となった。幹の水ポテンシャルの日変化は、飽差の変化とよく一致し、降雨時にはゼロ付近を示した。また晴天日の朝方に、幹上部の水ポテンシャルは、幹下部よりも約2時間遅れて低下を開始し、夕方の水ポテンシャルの回復も遅れた。同様のタイムラグは樹液流速度の観測結果からも確認された。このことから、ヒノキでは、前日に樹体内に貯留した水を翌日の蒸散に利用していることが示唆された。本研究成果は、樹体内貯留量を定量的に評価することに繋がるものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、幹の水ポテンシャル測定に基づき、国内の暖温帯ヒノキ林において、樹木の通水性に関する観測を行った。成果は水分生理学の分野に新しい潮流を生むものであり、学会発表でも反響を得た。現在、学術誌へ投稿準備中である。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、幹貯留量を考慮した常緑針葉樹の水利用特性の評価について、さらに詳細に調べていきたいと考えている。個体の高さ別に、樹液流速度および水ポテンシャル測定を行うと同時に、幹周および含水率の測定も行う。これらの測定は日周変化が捉えられる精度で行う予定である。各部位における水ポテンシャル差と含水率差から、組織内貯留量を算出する。この組織内貯留量の日変化や季節変化を明らかにすると同時に、土壌水分条件の異なる個体間で比較することにより、生育環境の時空間的な変動と樹木の水利用の関係を解明したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
幹・枝のミスポテンシャルを測定するサイクロメータは破損しやすく、代替品購入や修理を予定して物品日を計上していたが、幸い破損することなく一年継続して観測を行うことができたためである。
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次年度使用額の使用計画 |
幹周を測定するためのデンドロメータ、含水率を測定するための含水率計の購入を計画している。これらはともに樹木の貯留量を明らかにするために不可欠である。
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