ヒノキやスギなどの針葉樹の高木種では、高さにともなう根から葉への水輸送の困難さから気孔開度や炭素固定能の低下が引きおこると考えられている。これに対し、樹体に貯留されている水が蒸散要求に対して迅速に供給されることで、生じうる水ストレスを緩和することが近年示唆されている。本研究では、樹体内の通水性の制御機構に注目し、通導系のどの部位に、どの程度の貯留が生じているのかを明らかにすることを目的とした。 前年度までの幹・枝・葉の水ポテンシャルおよび幹の樹液流速度の観測から、滋賀県大津市の桐生水文試験地内のヒノキの樹体内に貯留水の存在を確認した。 今年度は、試験地内に生育する樹高6~8 mのヒノキ3個体を対象として切り木実験を行い、水分特性曲線法を用いて樹体内各部位の貯留量とその蒸散への寄与度を調べた。 2017年10月の晴れた日に、針葉および幹の木部圧ポテンシャル、蒸散速度、幹の伸縮量、樹液流量の日変化を測定した。その後、立木吸水法により樹液流速から吸水量への換算式を得た。また、単木および針葉の水分特性曲線から木部圧ポテンシャルにともなう各々の貯留水変化量を、幹の収縮量から幹の貯留水変化量を算出した。樹体内貯留水は午前の蒸散要求に応じて消費され、蒸散低下後から明け方にかけて再充填されていた。また、単木の日積算蒸散量に対する貯留水量の寄与率は約20%であった。各部位の貯留水の蒸散への寄与度は、葉が15.6%でもっとも大きく、続いて辺材が8.6%、樹皮が1.2%となっていた。貯留水量の約50~80%は葉における貯留水であったことから、葉の貯水性は日変化スケールの単木の水輸送体系に重要であると考えられる。
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