干潟において硝酸イオン(NO3-)は重要な栄養塩の1つであるが,過剰に供給されると海藻Ulva sp.(アオサ)の異常増殖を伴う富栄養化現象を引き起こす.NO3-は嫌気的環境下において,脱窒,アナモックス,アンモニアへの異化的硝酸還元(DNRA)と呼ばれる3つの微生物的硝酸還元過程によって消失する.脱窒とアナモックスはNO3-からN2を生成するため,系内から窒素を除去する過程といえる.一方,DNRAはNO3-をNH4+へ還元するため,系内に窒素を貯留する過程である.これらの過程は干潟におけるNO3-の消失を決定する重要な過程である.しかしながら,干潟におけるそれらの進行について詳細は明らかになっていない. 富栄養化の進行が危惧される谷津干潟の堆積物を対象とした平成29年度までの研究において,以下の2点について検討を行った. 1)15Nトレーサー法を用いて脱窒活性とアナモックス活性を測定したところ,圧倒的に脱窒活性が高く,アナモックス活性はほとんど検出されなかった.最適条件に設定した長期間培養実験についても行い,脱窒活性とアナモックス活性の測定を行なったが,アナモックス活性が脱窒活性より高くなることはなかった.したがって,谷津干潟におけるNO3-の除去は主に脱窒が担っていると考えられた. 2)脱窒,アナモックス,DNRA活性の同時測定法を確立した. 平成30年度においては,干潟堆積物環境を疑似した水槽にアオサを添加した系と無添加の系を作成し,確立した脱窒,アナモックス,DNRAの同時測定法によって各活性の測定を時間を追って行なった.アナモックス活性は両系とも培養期間を通して検出されなかった.脱窒活性はアオサ無添加の系が高く,DNRA活性は添加の系で高くなる傾向にあった.アオサの出現はNO3-の消失過程に大きく影響することが明らかとなった.
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