当該年度の目標は、75種類の異性体を持つ塩素化ナフタレン(PCN)について、二次元ガスクロマトグラフ質量分析計を用いて全異性体を完全分離すること、及び当該年度以前に実施した実環境での太陽光照射試験結果と疑似照射試験である耐候性試験結果を比較することであった。前者では、低塩素化体をより多く含む飛灰試料を抽出・精製しPCNの同定を試みたが、三塩素化体の完全分離は困難であった。ただし、全73ピークの分離は実現している。後者では、米国(ハワイ州)、中国(雲南省・四川省・北京)及びインド(ラジャスターン州)での実環境下での太陽光照射試験結果と耐候性試験結果を比較したところ、照射条件等を完全一致させることは困難であったが、PCN光分解の過程において両者に共通の異性体及び光分解物の存在が確認できた。共通の異性体はダイオキシン様毒性が報告されている五・六塩素化体の一部で、光分解中にその存在量が一時的に上昇していた。また、照射試料に元々存在していた、ダイオキシン様毒性が報告されている七塩素化体では、毒性がないとされる他の七塩素化体よりも分解速度が遅かった。特徴的な挙動を示した、これら異性体は毒性だけでなく、環境残留性も高いことから、モニタリングデータとの相互比較において興味深い知見となった。加えて、共通の光分解物としてフェノール系化合物が検出された。この化合物は既報等では確認できず、新たな光分解物であったと考えられるが、より正確な化合物同定には精密質量数での評価が必要であった。得られた結果は、既存のモニタリグデータの再評価だけでなく、リスク評価の高度化にもつながる知見であり、さらなるPCN光分解経路の探索にも重要な結果であると考えられた。
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