研究課題
今年度は、紫外線による塩基損傷がDSBやssDNA等の二次的なDNA損傷に変換されるメカニズムの解明と、生体内での二次的DNA損傷の生成の意義を明らかにすることを目的として実験を行い、以下のような成果を得た。1. 休止期状態の細胞を解析する際の問題点として、トランスフェクション効率の低さが常に問題となる。それを克服するために、比較的トランスフェクション効率が高く、文献的にG0/G1期に同調することができることが報告されているA549細胞を本研究に使用できるか否かを検討した。細胞周期の同調性を確認した後、正常細胞で観察されるNER依存的な反応について検討したところ、ATMのリン酸化に関してはNER阻害剤を添加した場合と非添加時で顕著な差はなかったが、H2AXのリン酸化は比較的はっきりとしたNER依存性が観察された。従って、少なくともssDNAを介した反応はA549細胞を用いて解析が可能であると判断した。2. G0/G1期に同調したA549細胞を用いて、NER依存的な反応への関与が疑われるExo1の関与を検討した。その結果、siRNAによりExo1をノックダウンすると、紫外線により誘起されるH2AXのリン酸化は有意に低下し、休止期のssDNAを介するATRの活性化にExo1が必要なことがわかった。3.マウスの皮膚組織においてNER依存的な二次的なDNA損傷が生成しているかを検討するために、野生型マウスとNER能を完全に欠損したXPAノックアウトマウスにUV-B紫外線を照射し、蛍光免疫染色により解析を行った。野生型マウスでは基底層にH2AXのリン酸化が観察され、またその反応は増殖性の指標であるKi-67抗原には依存していなかった。それに対し、XPAノックアウトマウスではH2AXのリン酸化は観察されず、皮膚組織においてもNER依存的な反応が生じていることが明らかになった。
3: やや遅れている
本研究計画を遂行する上で鍵となるのが、着目するDNA損傷応答を活性化する二次的DNA損傷生成機構の解明にある。それはNERによってDNA損傷が除去された後に生じたssDNAギャップ中間体が、エンドもしくはエキソヌクレアーゼ等によるプロセシングを経てDSBを生成する可能性が高く、その酵素の同定が極めて重要である。その解析には休止期細胞へのsiRNAや外来遺伝子の導入が必須であり、レンチウィルス系の導入やトランスフェクション効率が高くG0/G1期に同調可能なA549細胞を利用する等の試みを行なってきた。しかしながら、A549細胞においてはNER依存的に生じたssDNAを介してATR経路が活性化するという結果が得られたものの、特に注目度が高いDSBの生成によるATM経路の活性化におけるNERへの依存度は低く、休止期に容易に同調できる正常細胞の代わりにA549細胞を用いることは難しいと判断した。またレンチウィルス系は、我々が試す限り通常のトランスフェクションと効率があまり変わらず、効率的にノックダウンすることができていない状況にある。
今後の最重要課題として、NERによってDNA損傷が除去された後に生じたssDNAギャップ中間体に作用する酵素の同定がある。その解析には、前述したように休止期細胞へのsiRNAや外来遺伝子の導入が必須であり、その導入効率を高めることが極めて重要である。今年度にレンチウィルスを用いたshRNA系を導入して解析を進めてきたが、残念ながら期待通りの成果は得られていないが、さらに工夫を重ねて実験条件等を最適化することにより酵素の同定をめざす。また、これまでのように関与が予想される酵素に絞って解析するだけではなく、ゲノムワイドなsiRNAライブラリーや質量分析を利用した網羅的な解析を利用する等のアプローチも必要と考えられるので、共同研究等を利用してより積極的にその機構解明に全力を注ぐ。そしてその候補を同定できた場合、その活性の制御機構や、それを欠損した時の紫外線やNERの基質となるDNA傷害剤の影響について、細胞レベルそして個体へと解析を展開していく。一方、今年度の解析により皮膚組織においてもNER依存的な二次的DNA損傷が形成することを示唆する結果が得られたので、注目度の高いATM経路についても早急に検討する。そしてNERの基質となるシスプラチン等の化学物質を投与した時の反応についても非常に興味が持たれるので、個体レベルでの反応についても検討を続けて行く。
すべて 2016 2015 その他
すべて 学会発表 (6件) (うち国際学会 2件) 図書 (1件) 備考 (1件) 産業財産権 (1件)
http://www.p.kanazawa-u.ac.jp/~iden/index.html