研究課題/領域番号 |
15K00535
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
五十棲 泰人 京都大学, 学内共同利用施設等, 名誉教授 (50027603)
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研究分担者 |
戸崎 充男 京都大学, 学内共同利用施設等, 准教授 (70207570)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | トリチウム / トリチウム水汚染 / 比例計数管 / グラッシーカーボン / 2酸化マンガン触媒反応 |
研究実績の概要 |
平成27年度の課題の1つである「信号波形分析装置の組み上げと低バックグランド比例計数管の開発」に関しては計画通りの成果を得ている。既存の装置と解析ソフトに改良を加え、連続自動測定を可能にした。また、集積される多量のデータに対するエネルギーおよび立ち上り時間の波高解析を実行できるようにした。低バックグランド仕様比例計数管の材料(特に陰極部分)として炭素系の材料が優れていることが分かっている。グラファイト板、炭素薄膜およびグラッシーカーボンを使って比例計数管を作成し性能テストを行った。その結果、グラッシーカーボンが機械的強度性および化学的安定性に最も優れていることが分かり、本研究の比例計数管に採用することにした。 平成28年度の課題に挙げていた「トリチウムガス発生および導入装置の組み上げ」を平成27年度に行った。1週間を超える長期の連続自動測定では本装置(トリチウムガスモニター)を止めることなく試料ガスの流れを変えたり、試料ガス発生源の交換および吸湿剤の交換が必要になる。そのためガスラインの大改良を行った。トリチウムガス発生源は計画通り市販の電気分解キットを改良して作成しガスラインに装着できるようにした。 上記の改良を加えた本装置の性能テストを実施し、トリチウムガス(HT)とトリチウム水(HTO)の混合ガスに対して1週間単位の連続定量測定が可能であることを実証できた。また、吸湿剤を適切に選択すれば、HTOガスを取り除いたHTガスのみに対する同様の測定もできることが分かった。(HT+HTO)ガスとHTガスを選択的に測定できることは、本装置が空気中のトリチウム濃度の測定という本来の目的に縛ら得ず、水に溶存するHTOの様々な化学反応の観測に役立つものと期待できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成27年度の2つ目の課題である「電荷分割法による位置検出システムの組み上げと位置感応型比例計数管の製作」を実行する時間的余裕がなかった。HTO水溶液中の2酸化マンガンが起こす触媒反応でHTOまたはHTが発生することを確認する測定を、緊急の共同研究テーマとして、実施することにしたためである。研究実績の欄で述べたガスラインの大改良(平成28年度の予定課題)は、この2酸化マンガンの触媒反応の観測を早期に実現するために、予定を繰り上げて行った。信号波形分析装置、関連解析ソフトおよびガスラインの改良に約半年、触媒反応で発生するガス成分の測定と分析に3月以上かかり2つ目の課題には取り掛かれなかった。 2酸化マンガンの触媒反応は、原子炉事故で多量に発生したトリチウム汚染水からトリチウム成分をHTOまたはHTの形で除去する技術を開発するため、現在精力的に研究が進められている。本装置は触媒反応で発生するガス中のHTOおよびHTを高感度で検出することに成功した。この触媒反応の化学機構の解明には、本装置は不可欠のものとなる。今後、時間と予算の許す限り改良を重ね、本装置がこの重要なトリチウム除染技術の開発に貢献できるよう努力したい。必要な改良項目は、1)「HTO成分、HT成分の定量分析を可能にすること」および2)「HTO成分およびHT成分の独立した同時分析を可能にすること」である。 1)に関しては平成28年度以降の予定課題を実行すれば解決できると考えている。2)に関しては比例計数管2台と信号波形分析装置2台を同時に作動さす必要があるため既存の装置の改良だけでは対応できない。本科研費研究課題が終了した段階で新しい課題として取り組みたい。
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今後の研究の推進方策 |
今後の中心課題は、改良した本装置(トリチウムガスモニター)をHTおよびHTOの定量測定が可能な装置にすることである。そのため、平成27年度予定課題の1)「電荷分割法による位置検出システムの組み上げと位置感応型比例計数管の製作」および平成28年度予定課題の2)「比例計数管のトリチウム検出効率決定法の確立」を実行しなければならない。1)に関しては必要な電子回路類は京都大学放射性同位元素総合センターに備えられている。位置感応型比例計数管は本装置に取り付けるトリチウム測定用の比例計数管と同じ大きさで同じ形状のものを作成し、かつ、位置感応型にするため陽極芯線を7μφのカーボンファイバーにする必要がある。このタイプの位置感応型比例計数管は当総合センターで多数製作した経験がある。本研究課題に適合した位置感応型比例計数管の製作は問題なく実行できると考えている。 2)に関しては、位置感応型比例計数管にトリチウムを含むガスを流し芯線方向の検出効率曲線を求め、その効率曲線を使って本装置の比例計数管に対する検出効率を評価する方法を採用する。この方法は比例計数管中の放射性ガスに対する検出効率を正確に評価する方法の1つであり、当総合センターで様々な比例計数管の効率評価に応用した経験がある。そのため2)に関しても問題なく実行できると考えている。 最終的には、本装置に計数管ガス(PRガスまたはメタン)と10%空気の混合ガスを流し、空気中のトリチウム濃度を1週間単位で連続測定できるようにする。本装置は空気中の酸素や窒素がない場合は、10μBq/cm3以下の感度を容易に達成できるが、多量の酸素や窒素が混在している場合はその感度が1000~10000倍悪くなる。本来の目標である空気に対する1mBq/cm3以下の感度の達成はこれまでの改良の成果にかかっている。
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次年度使用額が生じた理由 |
放射性同位元素総合センター既設の高電圧電源を使用できたので、予定していた高圧電源の購入はしていない。その分消耗品の購入に当てたが、結果として92,743円の残額がでた。
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次年度使用額の使用計画 |
残額の92,743円は平成28年度に計数管ガス(PRガスやメタンガス)等の消耗品の購入に当てる予定である。
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