研究課題/領域番号 |
15K00535
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
五十棲 泰人 京都大学, 環境安全保健機構, 名誉教授 (50027603)
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研究分担者 |
戸崎 充男 京都大学, 環境安全保健機構, 准教授 (70207570)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | トリチウム / トリチウム水汚染 / 比例計数管 / グラッシーカーボン / 2酸化マンガン触媒反応 |
研究実績の概要 |
モニター装置:モニター装置の計数管陰極としては導電性のある軽Z原子で構成される材料が良い。グラッシーカーボンおよびカーボンシートで比例計数管を作成し、性能を昨年度に引き続いて調べた。どちらの材料も現在採用中のアルミナイズドマイラ膜より良い性能 (陰極からの2次放射線放出率がより低い) を持つことが明らかになった。しかし、グラッシーカーボンはモニター装置に要求される5-cm径x 50-cm長の大型パイプに市販のものがなく、新しく製作するには高額の費用がかかることが分かった。また、カーボンシートはアルミナイズドマイラ膜程の硬度がなく、大型のアクリルパイプに恒久的に内張りすることが難しい。グラッシーカーボンおよびカーボンシートを陰極とするモニター装置専用の比例計数管は製作できなかった。 トリチウム検出効率:トリチウム検出効率評価用の比例計数管を、グラッシーカーボン陰極 (3.8-cm径x 25-cm長) と7-μm径カーボンファイバーを使って製作した。この位置感応型計数管と電荷分割法による位置検出システムと組み合わせ、計数管自体の検出効率 (= 有感領域 / 計数管内容積) を求めた。次に、ガスコントローラを使い計数管ガス (PRガス) に空気 (5~10%) を混入し、新しく作成したトリチウムガス (主にHTO) 発生槽を通した上でトリチウム計数測定を行い、空気混入比の関数として計数減衰率を求めた。実験的に求めた計数管検出効率と計数減衰率から、この計数管のトリチウム検出効率を評価した。この方法による検出効率の決定精度は20%前後で、まだ十分でないと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
改良と整備:計数管ガスとしてメタンがバックグランド計数の点で良い性能を示す。PRガス (Ar+10%メタン) も系統的に調べた結果、外部放射線用のシールド材 (3-mm厚Al + 10-mm厚Cu + 5-mm厚Sn) を使う限り、バックグランド計数は同程度にできることが分かった。安全性を考慮して計数管ガスとしてはPRガスを採用することにした。グラッシーカーボンやカーボンシートは大容積の計数管を製作することが困難であることがわかり、モニター装置本体の計数管は従来のアクリルパイプにアルミナイズドマイラ膜を内張りしたものを採用することにした。ガス回路および2次元スペクトルの処理プログラムの改良等も行い、本空気中トリチウムモニター装置を長時間安定かつ安全に稼働できるものにした。空気中トリチウム濃度の定量評価のためには、この装置のトリチウム検出効率の高精度決定という課題だけが残っている状況である。 トリチウム濃度評価:本年度工夫した計数管のトリチウム検出効率の決定法を使って、本モニター装置の空気中トリチウム濃度の評価の精度は25%程度であることがわかった。評価濃度の下限値は2 mBq/mL程度になる。これらの値は本開発研究の目標値 (精度:10%以下;評価濃度の下限値:0.5mBq/mL以下) に及ばない。精度および下限値を良くするには、バックグランド計数を減少させるため現有のシールド材 (3-mm厚Al + 10-mm厚Cu + 5-mm厚Sn) に50-mm厚Pbを加えること及び計数率を上げるため計数管の本数を現在の4本から8本に増やすことが考えられる。これらの対応策は装置本体の大きさ、重量及び経費を過度に増加させることになるので現在のところ実行することは考えていない。新しい濃度評価法の開発で、この問題に対処すべく現在準備中である。
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今後の研究の推進方策 |
新しい濃度評価法の開発: これまでにトリチウム水の電気分解を利用したHTガス発生装置やトリチウム水から極微量蒸発してくるHTOを使ったHTOガス発生装置を製作した。これらの装置を使えば一定量のHT又はHTOガスを計数ガスに混入させてモニター装置に流すことができる。特にHTOガスを使用する場合、モニター装置からの排気ガスを冷却することにより計数管ガス中のHTOガスをトリチウム水としてほぼ100%回収することが可能である。HTを使う場合は酸化のための電気炉等の補助装置が必要になる。モニター装置の計数値と回収したトリチウム水の計数値からモニター装置のトリチウム検出効率の評価が比較的容易にできる。トリチウム水の計数には液体シンチレーションカウンターが必要であるが、京都大学放射性同位元素総合センターには共同利用機器として設置されており、それを本研究に利用できる。平成29年度は上記のアイディアを基に、より高い精度が期待できる、新しい濃度評価法の開発に邁進する予定でいる。 実験:これまでの予備実験で決めたモニター装置 (1L容積の比例計数管4本装備) の最適運転条件は、試料ガスPR+10%空気でガス流量300mL/min、ガス圧50kPaである。新しい濃度評価法で、この条件下のトリチウム濃度決定精度および決定下限値を正確に決めたい。決定下限値が1mBq/mLを切ることが実証できた場合は、論文等で公表したいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成28年度までに、モニター本体の改良、整備を行い本研究の目標の一つ (2週間以上の連続安全運転、2次元トリチウムスペクトルの高分解能解析) を達成できた。トリチウムガス濃度の評価に関しては、これまで追求してきた方法で目標値 (精度:10%以下;評価濃度の下限値:0.5mBq/mL以下) を達成できなかった。諸々の予備実験でトリチウムガス発生法や取扱技術を習得し、その過程で、より精度の高いトリチウムガス濃度評価方法を思い付いた (12. 今後の研究の進捗方策 等参照)。次年度に使用額は、主に、この新しい濃度評価法の開発のため必要とする。
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次年度使用額の使用計画 |
新しい濃度評価法の開発のためには、モニター装置からの排気ガス (試料ガスとしてPR+10%空気にHTOを混入させた混合ガス) を冷却してHTOをトリチウム水として取り出すことが必要になる。モニター装置の運転には計数管ガスの成分ガスであるアルゴンおよびメタンガスが必要である。トリチウム水の放射能強度側には液体シンチレーションカウンターを使うのでシンチレータ及び液シンバイアルが必要となる。次年度に生じた使用額としては、冷却装置製作費、計数管ガスおよび液体シンチレーションカウンター周りの消耗品代を予定している。
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