研究課題/領域番号 |
15K00537
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
田野 恵三 京都大学, 原子炉実験所, 准教授 (00183468)
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研究分担者 |
増永 慎一郎 京都大学, 原子炉実験所, 教授 (80238914)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | DNA損傷修復 / 細胞内微細環境 |
研究実績の概要 |
27年度は腫瘍細胞微細環境のうち、低酸素下特異的に致死効果を与えるチラパザミンに焦点を当てた解析を行い、その一連の知見についてChem. Toxicol. Res.に投稿し、28年度に受理された。また今年度は、腫瘍細胞微細環境の一つである低栄養下(無グルコース下)特異的に致死効果を示す2種類のビグアノイド薬剤、メトフォルミンとフェンフォルミンについて、DNA修復に関わる機能に焦点を当てた解析を進めた。今年度から、ニワトリBリンパ細胞株DT40のDNA損傷修復遺伝子欠損細胞と共に、ヒトリンパ細胞由来細胞TK6の遺伝子編集変異細胞パネルの使用を始めた。メトフォルミンとフェンフォルミンはいずれも無グルコース下で致死効果が増大するが、低酸素下では致死効果の増加は見られない。DT40細胞を用いた解析ではグルコース枯渇下で、DNA-topoisomerase I-DNA complex修復に携わるtdp1欠損株が、これら薬剤に対して強いグルコース枯渇下感受性を示した。また、DNA鎖間架橋修復に関わるfanc経路欠損細胞群、特にfanc core complexに関わるfancc, fancl欠損細胞が、メトフォルミンに対してのみ強いグルコース枯渇下感受性を示した。以上より、両薬剤は共にグルコース枯渇下処理でDNA損傷を生じさせること、特にメトフォルミンはfanc経路に依存したDNA損傷を引き起こすことが明らかになった。また、両薬剤によるグルコース枯渇下で生じるDNA損傷は異なることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2種類のビグアノイド薬剤のうち、メトフォルミンについては解析が順調に進み、臨床利用されている細胞濃度においても、特にfanc欠損下では細胞死をもたらすことが示された。fanc経路抗がん剤として利用されているシスプラチンはDNA架橋修復に関わることが知られていることから、メトフォルミンとの併用療法への基礎データを得ることができたと考えられることから、この点に焦点を当てた研究成果の投稿準備を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
これまでは主にニワトリリンパ細胞由来のDT40細胞を用いてきたが、将来的に種々の薬剤のヒトへの評価ということを念頭に置き、ヒトリンパ細胞由来TK6細胞の利用へ移行する計画を進めている。また従来の相同組み換えによる遺伝子破壊手法から、CRISPR Cas9を用いた遺伝子編集の方向に転換しつつある。ヒト細胞を用いることで、種間の違いによる表現型のバイアスを避けられることができ、より応用性の高い基礎データを供給できるのではと期待している。
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次年度使用額が生じた理由 |
メトフォルミンとフェンフォルミンによる無グルコース下特異的DNA損傷誘導の可能性について、遺伝学的には成果を得ることができたが、まだその損傷自体の同定、定量には至っていないため。
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次年度使用額の使用計画 |
遺伝的解析から得られたデータを元に、大量培養による細胞調整を行い、特に両薬剤で共通の損傷が見込まれるTopoisomrase-DNA 複合体の同定と定量についてトリ、ヒトの両細胞で実験を続ける。
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