研究課題
本研究の目的は、低線量照射により生じたラジカルやDNA鎖切断を端緒とするシグナル応答、つづいて惹起される細胞内環境の変動を多面的な視点から解析することにある。本年度は前年度に続き、DNA損傷初期応答遺伝子(ATM, DNA-PK, Nbs1, Ku70など)を標的としたshRNA発現レトロウイルスベクターを構築し、複数のヒト繊維芽細胞に導入して安定発現させた細胞株を得た。RNA・タンパク質の発現減少を確認した細胞を用いて、逆相・親水クロマトグラフィー/質量分析によるメタボローム解析・分子標的蛍光プローブを用いたレドックス状態・ミトコンドリア動態を順次観察し、初期応答分子の発現低下がもたらす細胞環境の変化および分子プロファイルの変化、さらに低線量放射線応答の変化について解析を行っている。特異的な代謝物変動を示す特定遺伝子のノックダウン細胞が認められ、変動分子の診断マーカーとしての展開や防御機構への関与が想定された。DNA二本鎖切断の生細胞イメージング系については、GFP融合タンパク質を用いたプローブ作成を試みたが、DNA損傷を誘導した際のS/Nが低く解析に供することは困難であった。また代謝物解析の過程で多数の分子の定量化の必要性が生じたため、未精製同位体混合物を用いた複数の代謝物分子種の一斉定量分析系を構築しており、特に細胞内SH環境調節分子を定量化し、DNA損傷応答との相関を明らかにすることを試みる。
3: やや遅れている
初年度11月開始であったため、当初の計画達成にはやや時間が不十分である。
今年度は最終年度であるため、研究計画に記載した検討項目の完遂を目指す。また、研究遂行中に構築を開始したSH環境調節代謝分子定量系を完成させ、DNA損傷初期応答遺伝子ノックダウン細胞を用いて代謝物量と細胞応答の相関について、蛍光プローブやメタボローム解析を併用した包括的なをすすめる。
初年度の開始時期が11月と遅かったため、研究の進行が予定より遅れているから。
研究計画に従い、逐次研究に必要な物品を購入する。
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