研究実績の概要 |
低線量電離放射線照射の細胞機能に与える影響を理解するために、様々な指標を用いて正常細胞の細胞内環境の変動を多面的に解析し全体像を理解するのが本研究の目的である。分子標的蛍光プローブ(ジクロロフルオレセイン、ローダミン1-2-3、BCECFなど)を用い、レドックス状態やミトコンドリア動態、pHなどを解析したところ、ヒト正常繊維芽細胞において100mGyのX線照射の前後で変動する指標が認められた。加えて、液体クロマトグラフィー質量分析(LC-MS)によるディファレンシャルメタボローム解析を行い、放射線照射により変動する代謝物を同定した。 これらの変動のDNA損傷シグナルと代謝調節の相関を観察するため、初期応答分子(ATM, DNAPK, NBS1, Ku70など)や代謝調節シグナル分子(AMPK, MTOR, TIGARなど)を標的としたshRNA発現レトロウイルスベクター導入ヒト繊維芽細胞をもちいて解析を行い、特定のshRNA導入によってもレドックス状態の変動などが認められることを確認した。また、特定のshRNA導入細胞では定常状態でDNA二本鎖切断が増加しているものがあり、損傷誘発と指標変動の相関が示唆された。メタボローム解析の結果、核酸代謝物や脂質代謝物の変動が再現性良く検出され、放射線照射でも認められるポリアミン代謝経路の分子の増減が特定のshRNA導入により認められた。また、shRNA導入細胞の低線量照射の結果、これら経路の代謝変動の増減が認められることから、低線量域においてもDNA鎖切断やラジカル生成を端緒とするシグナル応答が代謝調節を介して細胞機能を調節している可能性が示唆された。
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