研究課題/領域番号 |
15K00548
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研究機関 | 福島学院大学短期大学部 |
研究代表者 |
杉浦 広幸 福島学院大学短期大学部, その他部局等, 准教授 (90412949)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 放射性セシウム / サクラ / 樹皮 / 表面汚染 |
研究実績の概要 |
平成28年度は、ウクライナでサンプル採取をし、福島のサクラ樹皮汚染の将来を予測する材料とした。四半世紀前にチェルノブイリ原発事故により福島市と同レベルの放射性セシウム汚染に見舞われた村で採取したサクラ粗皮は、最も高いもので1 kBq/kg程度で、その2倍以上汚染されて避難地域となった場所から採取した樹皮では最高4 kBq/kgくらいであった。筑波大学・東北大学の協力でIPによる調査をしたところ、いずれのサンプルからも、福島原発事故で見られたような高濃度汚染粒子は発見できなかった。高濃度放射性セシウム汚染粒子の樹皮表面での付着は、福島市信夫山や伊達市御幸山のような高濃度汚染地域で高いわけではなく、むしろ福島市・伊達市の市街地周辺で高く¥かった。この汚染状況について、日本放射線安全管理学会6月シンポジウムで紹介した。 また、福島の主たるサクラ枝物生産地である花見山地区より枝サンプルを採取し、放射性セシウム濃度を調査した。その結果、10~30 Bq/kg程度の濃度であった。平成27年に樹皮の剥ぎ取り除染をしたサクラから展開した葉の放射性セシウム濃度を調査したところ、無処理の株と変わらずなかった。結果は、平成29年3月の園芸学会にて発表した。高濃度放射性セシウム汚染地域「御幸山」へ植林した苗の調査で、埋め戻し用の土壌に表土を混ぜる通常植林で用いる方法では苗が多く吸収してしまい、深土のみの場合より約3倍の濃度であった。また、高濃度汚染地域である御幸山のサクラ古株から伸びた若枝の放射性セシウム濃度を調査したところ、福島市内で採取される枝の6倍の高さであったが、表土を混ぜずに被覆土壌とした苗の濃度と同レベルであった。 樹皮の剥ぎ取りによる除染の効果について論文にまとめ、現状投稿中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度は、予定していたウクライナのチェルノブイリ事故の汚染地へサンプリングに行き、NPOの仲介で現地大学(ジトームイル農業生態大学)の協力により必要なサクラ樹皮のサンプルが採取できた。測定機材の現地持ち込みや、サンプルの日本への持ち帰りで検疫も順調に通すことができた。調査結果については、H29年度の学会大会にて発表予定である。 樹皮サンプルの調査について、本学にはイメージングプレート法の機材はないが、筑波大のほか東北大でも借用させてもらい、多くのオートラジオグラフィーが取得できた。樹皮の放射性セシウムを含む微粒子について、樹皮表面の付着状況観察のため、東北大よりSEMも借用させてもらえるようになった。樹皮表面の放射線のスポットは、全体に広がる薄いものに加え、特に強いスポットが観察され、いわゆるセシウムボールの付着が疑われた。その強いスポットは、信夫山や御幸山と言った高濃度汚染地域だけでなく、福島市北部の住宅地でも多く観察された。サクラは学校に多く、子どもを持つ親には重要な情報であるため、それら放射性セシウムによる高濃度樹皮汚染の情報は、希望する地域の市民団体に提供している。しかし「樹皮の表面汚染が高濃度である報告は他にもある」として、原著論文としてはなかなか受理されない状況である。そのため、除染の効果へシフトしてまとめ直し、現在投稿中である。 サクラ枝物の産地での営利栽培用のサクラについて、主たる生産地である福島市で汚染が高かった渡利地区の生産者の協力により、採取・調査が実施できた。枝物の産地の土壌の放射性セシウム濃度は、本学周辺の約2倍であるが、得られる枝物サンプルの濃度は10~30 Bq/kg程度であり、その汚染の大半は内部であり、流通に問題は無い儒教であった。 高濃度汚染地に植えたサクラ苗は、1年目の調査で覆土に表土を混ぜると樹体が汚染されるようであった。
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今後の研究の推進方策 |
サクラ樹皮の放射性セシウム汚染について、本研究を開始した2~3年前に比べて同じ地域で、現状がどう変化したか調査し、今後の福島での汚染がどうなっていくか検討する。近年、樹皮汚染の調査を拒否する所有者も多いため、採取地は絞ることになる。サンプルの採取場所として、福島県の浜通地区がうまく確保できなかったため、今年は浜通りでの採取も実施したい。サクラの樹皮表面がいかに高濃度の放射性セシウムに汚染されているかは報告してきたが、原著論文としては難しいようであるので、それらの調査結果は今年度の汚染の現状調査結果を含めて事例報告での投稿に変更する。現在、東北大学サイクロトロンアイソトープ研究センターと総合研究棟の協力で、イメージングプレート法により樹皮表面に確認される強い放射線のスポットを観察し、その部分にセシウムボールに該当する粒子が付着しているか、必ず確認したい。調査結果は、秋の学会大会で報告できるようにしたい。またウクライナからのサンプルについても、イメージングプレートによりさらに観察し、福島のサンプルと比較検討予定である。 サクラ枝物の流通への不安解消のため、枝の汚染調査は場所や土質を検討しながらさらに続ける予定である。サクラ枝の調査について、流通用だけでなく、野生のサクラについても調査し、土質との関係の検討材料にする。 高濃度放射性セシウム汚染地である御幸山に植樹したサクラ苗について、今年度は汚染の最終調査年となる。枝(幹)の放射性セシウム濃度調査のほか、可能であればイメージングプレート法でも調査したい。生長した苗を採取し、植樹方法(土壌濃度)による違いで、樹体がどの程度汚染されるかを調査し、今後どのようにサクラを植えるべきか、サクラ植樹を検討している市民への検討資料を作製する。
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次年度使用額が生じた理由 |
事務上のトラブルで、使用額が既に満額を超える状況との勘違いがあったため、その分の支出を大学内の経費で支出して対応したため差額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
今年度は最終年度となるため、昨年度実施しなかった放射線測定器の校正を予算の範囲内で行う。
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