研究課題/領域番号 |
15K00553
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研究機関 | 公益財団法人放射線影響研究所 |
研究代表者 |
佐藤 康成 公益財団法人放射線影響研究所, 分子生物科学部, 研究員 (30393424)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 放射線継世代影響 / 全ゲノムシークエンス / 突然変異 / 男性被曝 |
研究実績の概要 |
ヒトにおける放射線の遺伝的影響の評価は、その多くをマウスの特定遺伝子座テスト(SLT)に負っている。これは7遺伝子座に関するもので、遺伝子間の感受性差が大きいため、ゲノム全体の感受性に関しては未解明である。個体当たり210万部位を解析できるアレイ(プローブ間隔は平均1kb)を用いたCGH法により4Gy照射された精原細胞に由来するF1に生じた突然変異の検索を行ったが、照射群のF1マウス100匹中に5個、対照群に1個の欠失変異しか検出されなかった。これはSLTの結果から推定される頻度よりも2桁以上低い。この食い違いは、塩基対置換や数10bpレベルの欠失が多いためかも知れない。本研究では、原爆被爆者における男性被曝のモデルとして上記の研究で用いた、精原細胞への4Gyガンマ線照射後に産まれたF1マウスについての全ゲノムシークエンスを行い、塩基置換や小さなサイズの欠失などの突然変異について検討することを目的とした。 雄のC57BL/6マウスへ4Gyのガンマ線を照射する前に雌マウスC3Hと交配させて産まれたF1マウス6匹と雄マウスに照射8週後に別の雌マウスC3Hとの交配に産まれたF1マウス6匹、ならびに親マウス(父マウス1匹と母マウス2匹)の合計15匹について150bpのペアエンド法による全ゲノムシークエンスを実施した。得られたシークエンスデータを、産業技術総合研究所との共同研究により、国立遺伝学研究所のスーパーコンピューターシステムを利用して解析を行った。両親ならびに他の兄弟マウスには検出されず、個別のF1マウスにのみ検出される塩基置換型と欠失・挿入型の突然変異候補を複数得た。欠失・挿入型の変異についてサンガー法による検証を行い、照射後に産まれたF1マウスにおいて照射前のF1マウスよりもこれらの変異が増加していることを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
雄のC57BL/6マウスへ4Gyのガンマ線を照射する前に雌マウスC3Hと交配させて産まれたF1マウス6匹と雄マウスに照射8週後に別の雌マウスC3Hとの交配により産まれたF1マウス6匹(これにより、精原細胞の時期に照射された細胞由来のF1を検査していることになる)、ならびに親マウス(父マウス1匹と母マウス2匹)の合計15匹について150bpのペアエンド法による全ゲノムシークエンスを実施した。得られたシークエンスデータを、産業技術総合研究所との共同研究により、国立遺伝学研究所のスーパーコンピューターシステムを利用することで解析した。両親ならびに他の兄弟マウスには検出されず、個別のF1マウスにのみ検出される塩基置換型と欠失・挿入型の突然変異候補を複数得た。欠失・挿入型の変異についてサンガー法による検証を行い、照射後に産まれたF1マウスにおいて照射前のF1マウスよりもこれらの変異が増加していることを確認した。
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今後の研究の推進方策 |
欠失・挿入型変異が両親に由来する染色体のどちらに生じたかの決定を行う。塩基置換型変異については、サンガー法による検証を行っていく。塩基置換型と挿入・欠失型のそれぞれの突然変異について父マウスへの放射線照射前に産まれたF1マウスでの突然変異率と照射後に産まれたF1マウスでの突然変異率を決定し、放射線が父マウスの精原細胞へ与える影響についての解明を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初予定していた突然変異候補の解析に時間がかかり、その一部は次年度に解析を行うこととなった。このため、次年度使用額が発生した。
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次年度使用額の使用計画 |
F1に検出された欠失・挿入型の新規突然変異が両親に由来する染色体のどちらに生じたのか決定を行うための費用に主に充てる。また、塩基置換型新規突然変異の検証にも使用する。
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