放射線の遺伝的影響の評価は、その多くをマウスの特定遺伝子座テスト(SLT)に負っている。これは7遺伝子座に関するもので、遺伝子間の感受性差が大きく、ゲノム全体の感受性に関しては未解明である。個体当たり210万部位を解析できるCGH法により4Gy照射された精原細胞に由来するF1に生じた突然変異の検索を行ったが、照射群のF1マウス100匹中に5個、対照群に1個の欠失変異しか検出されなかった。これはSLTの結果から推定される頻度よりも2桁以上低い。この食い違いは、塩基対置換や数10bpレベルの欠失が多いためかも知れない。本研究では、原爆被爆者における男性被曝のモデルとして、精原細胞への放射線照射後に産まれたF1マウスについての全ゲノムシークエンスを行い、塩基置換や小さなサイズの欠失などの突然変異について検討することを目的とした。 雄のC57BL/6マウスへ4Gyのガンマ線を照射する前に雌C3Hマウスと交配させて産まれたF1と雄マウスに照射後に別の雌マウスC3Hとの交配に産まれたF1について全ゲノムシークエンスを実施した。両親にはなく、F1にのみ検出される数bp~10数bpの欠失・挿入型の突然変異が、照射前のF1で合計40個、照射後のF1で合計95個得られた。これらのうち、44個をサンガー法により確認したところ、全て親にはなく、F1にのみ確認される変異であった。これらの欠失・挿入のうち、同じ塩基が繰り返し存在する領域(シンプルリピート領域)以外の領域に存在する欠失・挿入では、照射後のF1で照射前のF1の5倍以上に変異の数が増加する傾向が見られた。この増加分には照射前の交配と照射後の交配の間の期間による加齢の影響が含まれるけれども、ヒトで知られている欠失・挿入型変異の加齢の影響を考慮に入れても、加齢の寄与は大きくないと考えられ、放射線の影響による増加が観察されているものと思われる。
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