研究課題/領域番号 |
15K00554
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研究機関 | 公益財団法人放射線影響研究所 |
研究代表者 |
高橋 規郎 公益財団法人放射線影響研究所, 顧問 (40333546)
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研究分担者 |
大石 和佳 公益財団法人放射線影響研究所, 広島臨床研究部, 部長 (20393423)
丹羽 保晴 公益財団法人放射線影響研究所, 分子生物科学部, 副主任研究員 (40284286) [辞退]
三角 宗近 公益財団法人放射線影響研究所, 統計部, 研究員 (90457432)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 放射線影響 / 循環器疾患 / 動物実験 / バイオマーカー |
研究実績の概要 |
原爆被爆者、放射線治療後の患者を対象とした疫学調査は高血圧、心疾患、脳卒中、慢性腎疾患など循環器疾患の発症リスクが被曝線量に相関して上昇することを示唆している。しかし、この事象が放射線の直接的作用なのかが明確ではない。一方、職業や環境中での低線量・低線量率放射線に被曝したヒトの結果は矛盾を含むものである。そこで、我々は動物実験によりこれらの結果を検証している。我々が導入した動物実験系は、極めて高感度で、放射線が循環器疾患に相関していることを示した。即ち、低線量(0.25Gy~0.75Gy)を照射したSHRSPラットでは脳卒中発症時期が0.25Gy においても有意に亢進していた。 1、2、4Gy を照射したSHR の収縮期血圧値は、非照射対照群に比べ高値を示した。 本研究計画における目的は、低線量(0.2Gy以下)および低線量率(0.1Gy/日以下)の放射線被曝と循環器疾患との相関を調べることである。平成27年度の0.2Gyを照射したラットの結果は、照射群では対照群に比べて、脳卒中発症時期は有意に亢進していた。そこで、平成28年度では、0.1Gyを照射したラットで調べたところ、発症時期は非照射群に比べて有意に亢進していた。低線量率照射と高線量率一括照射との違いについての研究は、27年度に計画より早めて予備的実験を実施した。この結果より、我々の研究計画は実行可能あるとの結論を得た。平成28年度において、研究計画で示した実験を開始した。現在実験は継続中である。放射線がいかにして循環器疾患を生じさせるかの機序研究には、種々のバイオマーカーの変動を観ることが不可欠である。それらを再現性良く測定することは極めて重要である。計画に従い、平成27年度に測定方法を確立した。その方法を用いて28年度に得た試料の測定を行っている。統計解析は29年度に得た試料とともに行う。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成28年度はSHRSPを用いて、低線量・低線量率放射線と循環器疾患の発症リスクの変化の関係を調べた。低線量放射線としては0.1Gyを用いた。使用したSHRSPの匹数は;照射群、40匹;非照射対照群、40匹である。照射群で対照群に比べて、脳卒中発症時期は有意に亢進していた。しかし、発症時期は0.2Gy以上の放射線を照射したラットよりも遅いように思われた。 低線量率放射線の研究も実施している。線量率として、100mGy/日と50mGy/日を、集積線量としては、0.5Gyおよび1Gyを用いている。用いたラットの匹数は照射群、対照群ともに各10匹である。低線量率放射線を照射したラットの死亡時期が想定より遅かったため、平成28年度終了時点では、若干のラットは生存中である。そのため、発症時期の比較および寿命の統計解析は遅れている。 血液中のバイオマーカーの検査は、放射線被曝と循環器疾患の進展との関係についての機序を理解するために有用である。そこで、先行研究で行った比較的高線量放射線(1Gy~4Gy)を照射したSHRの血液試料を用いて、総コレステロール値などの生化学検査、IL-6などのサイトカインの測定、メタボローム解析に関する測定条件の確立を試みた。その結果、サイトカイン測定に関しては血漿より血清の方が良いこと、内部標準を複数測定すれば、懸案だった、測定キットのロット間差を補正できることが判った。また、メタボローム解析に関しては、血清および血漿の両方の検査が必要であることが判明した。より正確な測定値を得るためには、全検体を可及的同時期に測定することが望まれる。現在、試料を蓄積している。このため、測定の開始時期が若干遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
1)27年度に前倒しで開始した、SHRSPを用いて線量率の変化に伴う循環器疾患発症リスクの変化を調べる研究は、28年度も継続中である。29年度初めには、集積線量が0.5Gyに関しては、全実験が終了するので、統計解析を開始し、一括照射と緩照射の脳卒中発症時期および寿命に及ぼす影響を比較する予定である。2)より低い集積線量(0.25Gy)の実験を開始する。この場合も、脳卒中症状の発症時期および寿命を指標として用いる。この過程で得られた剖検試料の病理検索を引き続き、環境科学技術研究所と連携して行う。3) SHRSPに低線量(0.1Gy)放射線を一括照射し、放射線と循環器疾患の相関をみる研究については、発症時期が有意に亢進しているとの結果を得た。この研究で得られた剖検試料について、病理検索を今後も継続する。4) 低線量率放射線を照射したSHRを用いて血圧値の変化におよぼす効果の一括照射との違いを見る。5) 100mGy/日で集積線量(0.25Gy、0.5Gy)を照射したSHRSPを照射後8週間目で解剖し、血液試料を得る。得られた血液試料を平成27年度の実験で確立した方法で測定する。 1)~5)が完了した段階で、①放射線量・線量率と発症時期および組織形態学的変化などの指標との関連を線形回帰モデルにより解析する。②血圧値とバイオマーカー値に関しては、放射線量・照射線量率の違いがそれらの値にどのように影響するのかを線形回帰モデルを用いて見る。③循環器疾患への放射線の影響を調べるため、異なった線量・線量率区分間の、Kaplan-Meier生存曲線の推定値を比較する。④循環器疾患の発生率における放射線被曝のリスクはCoxモデルを用いて解析する。
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次年度使用額が生じた理由 |
広島大学・長崎大学・福島県立医科大学によるネットワーク型共同利用・共同研究拠点による平成28年度「放射線災害・医科学研究拠点」共同利用・共同研究に昨年度と同様に採択されたため、種々の補助を受けることができた。ラットの購入や一部のバイオマーカー測定試薬は他の実験と組み合わせることにより無償で実施できた。
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次年度使用額の使用計画 |
来年度は、低線量率の効果を見るためのラットの購入費が増加することが見込まれる。また、放射線がどのようにして循環器疾患と相関するかの機序を推定するために、バイオマーカーの測定、特にメタボローム解析を大々的に行う。そのために使用するサイトカイン用イミノアッセイキット、メタボローム測定用の消耗品など高額な試薬・消耗品の大量購入が見込まれる。また、得られた膨大なデータの統計解析を行うためにコンピュータのグレードアップが必要と思われるので、それらに使用する。更に、生体試料の収集のために、人的補助が必要となるので、そのための経費としても使用する。
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