研究課題
原爆被爆者等の放射線被曝したヒトを対象とした疫学調査は循環器疾患の発症リスクが被曝線量に相関して上昇することを示唆した。しかし、原爆被爆等にともなう精神的ストレスや社会的・経済的状態等の交絡因子および修飾因子がこの事象の解釈を難しくしている。そこで、この事象を明確にする目的で、モデル動物を用いた実験を行った。更に、どのような作用機序で放射線により循環器疾患が生じるかを調べるための研究も行い、以下の結果を得た。放射線(1、2、4Gy)を照射した脳卒中易発症性高血圧自然発症ラット(SHRSP)を用いた先行研究では、照射したラットの脳卒中発症時期は非照射対照群より有意に早期化していた。本研究で行った0.1Gyの放射線を照射したSHRSPでも、発症時期は非照射群に比べて早期化していた。低線量率(0.1Gy/日)放射線を集積線量が0.5および1Gyになるまで照射したSHRSP では早期化は全く認められなかった。一方、線量(1、2、4Gy)を照射した高血圧自然発症ラット(SHR)では、各群の血圧値は線量に比例して高値を示した。病理検索で観察された肝臓に生じた脂肪滴等の病変は、線量の増加に従い、病変を有する個体数は増加した。また、照射線量の増加に従って体重の増加の抑制が観察された。SHRとは異なる種類のラットであるウィスター京都(WKY)を用いた実験を行ったところ、体重の増加の抑制は観察されたが、血圧値の上昇は認められなかった。また、SHRの肝臓に認められた病理的変化はWKYでは観察されなかった。以上の結果より、①脳卒中発症時期の早期化は放射線被曝が関係していること、②線量率により発症時期は影響されること、③血圧値の上昇については、遺伝的素因の違いにより放射線に対する感受性が異なることなどが判明した。尚、④種々のバイオマーカーの測定は、発生機序の構築に重要な情報を与えることを示唆した。
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