研究課題/領域番号 |
15K00557
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
劉 暁輝 九州大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (60596849)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | タモキシフェン受容体 / タモキシフェン / 抗エストロゲン作用 / オルガネラ膜 / 乳がん細胞 |
研究実績の概要 |
乳がん治療薬であるタモキシフェンは、女性ホルモン・エストロゲンと競合し、乳がん組織に存在するエストロゲン受容体ERに結合して、抗腫瘍効果を発揮する。しかし、このタモキシフェンには重篤な副作用が多いことが大きな社会問題となっている。我々は、乳がん細胞において、タモキシフェンが特異的に非常に強く結合する受容体を発見し、タモキシフェンの広範な副作用と深く関連している可能性を見出した。本研究の目的は、乳がん細胞においてタモキシフェン受容体を同定し、この同定された受容体に結合しないERアンタゴニストを新規な抗エストロゲン剤として設計・合成することである。 平成27年度は、(1) タモキシフェンと類似構造を持つ新規な化合物を設計・合成した。これらの化合物はERに強く結合するが、タモキシフェン受容体とは弱くしか、あるいは全く結合しないことを確認した。また、ERに対してアンタゴニスト活性を示す新規な化合物を見出した。(2) 種々の予備実験、検討からタモキシフェン受容体の候補として約10種をリスアップすることができた。そして、乳がん細胞において、これらの候補受容体の内在性発現量を調べるため、必要なサンプルの準備を完了した。さらに、一部の候補受容体について、siRNAによる乳がん細胞の内在性受容体をノックダウンして、タモキシフェンとの結合性について、受容体結合試験及び蛍光標識したタモキシフェンを用いて細胞染色を行った。現在、標的受容体は同定されていないが、平成28年度中には完了する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成27年度では、まず、タモキシフェンと類似構造を持つ新規な化合物を設計・合成し、これらにタモキシフェン受容体と全く結合せず、ERに対してはアンタゴニストとなるものを発見した。さらに、タモキシフェン受容体については、候補受容体約10種の選定に成就した。また、siRNAによるノックダウン、結合試験及び蛍光標識タモキシフェンによる染色等のチェック試験系の確立に成功し、候補受容体の絞り込みを実施することに成就した。このように、本年度の研究はおおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究については、 (1)乳がん細胞タモキシフェン受容体の同定:平成27年度の引き続き、約10種の候補タモキシフェン受容体について、乳がん細胞において、内在性発現量を調べる。さらに、平成27年度と同様に、また実験を行っていない候補受容体について、siRNAによる乳がん細胞の内在性受容体をノックダウンして、蛍光標識したタモキシフェンを用いて細胞染色、及び受容体結合試験を行い、最終的に目的受容体の同定を試みる。 (2)乳がん細胞タモキシフェン受容体の単離・精製:(1)で同定した候補受容体について、リンカーにタモキシフェンを繋いだガラスビーズを用いて、単離・精製を試みる。そのため、① アフィニティ精製のための最適なタモキシフェン誘導体の設計・調製を実施し、それを導入したガラスビーズの調製を行う。② MCF-7乳がん細胞について、分画遠心分離法などにより細胞膜とオルガネラ膜を別々に採取する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度、理学部のキャンパス移転が実施された。これに伴って、平成27年8月末からは移転準備を、10月に移転、その後には実験環境の立ち上げ、機械の調整、施設(P1室)の設置・申請など、約2ヶ月を要してようやく完了した。歴史の長く、多種多様の優れた実験研究を展開したきた研究室であるため、実験器具や設備が非常に多く、片付け及び立ち上げにおいて予想以上に時間がかかり、予定より2ヶ月も長くなり、ほぼ4ヶ月実験はストップ状態となってしまった。さらに、一部の注文試薬について、在庫切れのために納品が間に合わなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
未納品の試薬は4月納品予定である。そして、次のステップの実験に順調に進むため、必要な試薬を早急に購入する予定である。
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