研究課題/領域番号 |
15K00559
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研究機関 | 東京女子医科大学 |
研究代表者 |
平 久美子 東京女子医科大学, 医学部, 非常勤講師 (10163148)
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研究分担者 |
池中 良徳 北海道大学, 獣医学研究院, 准教授 (40543509)
中山 翔太 北海道大学, 獣医学研究院, 助教 (90647629)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ネオニコチノイド / ネオニコチノイド代謝物 / 診断法 / 亜急性・慢性中毒 / 高感度分析法の開発 |
研究実績の概要 |
2017年度は実施計画に従い、1:ネオニコチノイド系殺虫剤(NN)7種および昨年度に続き新規に合成した合計20種の代謝産物のLC-ESI/MS/MSを用いた分析法の開発、2:開発したMethodを用いた曝露評価 を実施した。
1:NNの一部の代謝産物は、ヒトのニコチン性アセチルコリン受容体に対し強い親和性を持つことが報告されていて、NNのヒト曝露において代謝的活性化の懸念がある。そこで今年度も昨年度に引き続き新たに代謝産物を合成し、その高感度分析法を確立した。また、昨年度回収率が低かった一部の代謝産物について、適切な前処理条件を整えた。更に、今年度は尿など液体試料に加え、組織や全血などのよりマトリクスの多い試料に対する分析条件の検討を行なった。本方法により、ネオニコチノイドのより詳細な組織蓄積特性などの解析が可能となった。
2:昨年度に引き続き、国内外のフィールドレベルでヒト尿のスクリーニング調査を実施した。昨年度採取した試料を分析し、クレアチニン補正によるNN曝露量の推定を行ったところ、日本の3~6歳の90%は同時に2種以上のNNの曝露を受けており、推定1日摂取量(EDI)は最大で200 ug/day程度で、許容1日摂取量(ADI)と比較すると、最大で4%程度だった。最近の報告によれば、NNは実験動物に対し、ADI算出の根拠になっている無毒性量(NOAEL)よりはるかに低いレベルの曝露で影響を与えることがある。例えば、Sun et al. (2016)はメスマウスに対するimidaclopridのNOAELの1/100の投与がAMPKα経路を介し高脂肪食の影響を助長することを見出している。以上を併せて考慮すると、日本の幼児のNN曝露レベルは決して低くはなく、神経発達途上で高感受性集団と考えられる若年者の曝露量減少のために、何らかの方策が必要であることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該研究では、日本に住む幼児の尿中ネオニコチノイドの分析を実施した。その結果、幼児はほぼ100%ネオニコチノイドに曝露を受けており、更に複数のネオニコチノイドに複合曝露されている事を明らかにすることが出来た。また、一部データ解析中であるが、幼児よりも更に感受性が高いと考えられる生後48時間以内の新生児の尿も採取し、この新生児からもacetamipridの代謝産物が検出され、母体から何らかの経路で曝露を受けている可能性が示された。ネオニコチノイドの新生児に対する影響は未だ不明な点が多く、高度脳機能形成に重要な胎児・新生児・幼児における毒性影響評価の必要性を世界に先駆け明らかにする事が出来た。 一方、高感度分析法では、尿などの液体試料だけでなく、固体試料である組織中のネオニコチノイドおよびその代謝産物の分析法を確立した。本法により、従来法では明らかに出来なかった組織中の蓄積特性、また母子間移行メカニズムを明らかにできることが期待できる。一部実施しているマウスを用いた母子間移行の試験では、胎児から親化合物のみでなくその代謝産物も検出された。今回検出された代謝産物が親由来であるか、胎児が代謝生成したのか、明らかにする必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
2017年度は尿中だけでなく、各組織における蓄積特性を明らかにするため、その分析法を確立した。これにより、各種臓器・組織への蓄積特性の解析が可能になっただけでなく、母子間移行メカニズムについても世界に先駆け明らかにする事が可能である。今後は当初計画に加え、実験動物であるラットやマウスに加え、霊長類モデルとして妊娠ニホンザル保存試料も用いてネオニコチノイドの母子間移行メカニズムの解明を測る。一方ネオニコチノイド中毒バイオマーカーの解析をメタボロームを中心にマルチオミックス解析を実施する事で候補物質の絞り込みを行って行く予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該研究における検体採取と実験はすでに終了し、その結果をまとめた論文を作成しましたが、内輪の査読者からいくつか問題点を指摘されたため、記述を変更しました。今後、再度査読を受けてから英文学術雑誌に投稿予定ですが、投稿料の支払いは受理された後であるため、今年度中の執行は難しいと判断し、補助事業期間の延長をお願いします。残りの資金は、英文校正費用、投稿料に充てさせていただく予定です。
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