国内外来魚モツゴは、姉妹関係にある日本固有種シナイモツゴ(以下シナイと記す)と置き換わりながら急速に分布を拡大した。本研究では、可塑的・遺伝的形質に着目した行動学的・分子生態学的種間比較によりモツゴの侵略メカニズムを解明することを目的とした。 これまでの実験より、モツゴは流水中で上下流ともに移動するが、シナイは定位する傾向が観察され、ある流速条件下ではモツゴの遊泳能力はシナイよりも高いことが示唆された。本年度は、2種の遊泳能力をさらに詳細に分析するため、(1)流速調節のできる密閉式回流水槽を用いて臨界遊泳速度(Ucrit)、および、酸素消費量(MO2)、(2)尾鰭の振動数・振幅を測定し、さらに(3)遊泳能力に影響すると考えられる鰭と体型の形態学的解析を行った。 その結果、モツゴはシナイと比較して(1)UcritおよびMO2が有意に高く、(2)尾鰭をより小さい振り幅でより多く振動させ、(3)尾柄が細く、胴体の前方が高く、三日月型に近い尾鰭を有することが明らかとなった。以上のモツゴの特徴は、長時間の遊泳に適した巡航遊泳に好適な特徴と一致した。さらにモツゴはシナイと比較して、長い尾鰭と背鰭を持ち、捕食者回避に有効な非定常遊泳に長ける特徴も有していた。また、今回の実験では、シナイと比較してモツゴは低い流速では水流に逆らって泳がない傾向がみられた。 以上より、モツゴはシナイより流水環境に適応的であることが示唆された。また、モツゴが低い流速では水流に逆らわないことは、新天地における速やかな好適生息地への移動分散を促進する可能性が考えられた。
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