研究課題/領域番号 |
15K00566
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研究機関 | 京都工芸繊維大学 |
研究代表者 |
富田 祐子 (半場祐子) 京都工芸繊維大学, 応用生物学系, 教授 (90314666)
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研究分担者 |
久米 篤 九州大学, 農学研究院, 教授 (20325492)
山田 悦 京都工芸繊維大学, 環境科学センター, 教授 (30159214)
北島 佐紀人 京都工芸繊維大学, 応用生物学系, 准教授 (70283653)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 乾燥ストレス / 大気汚染物質 / 光合成 / 街路樹 / 炭素安定同位体比 |
研究実績の概要 |
街路樹の光合成機能と炭素安定同位体との関係を調べるため、屋外における街路樹調査、およびポット植えした街路樹の苗に乾燥ストレス負荷を与える実験の2種類の研究を行った。 (1)京都市内における街路樹調査: 京都市内において、大気汚染物質濃度が異なっていることが分かっている3カ所の調査地を選定し、オゾンの濃度を実測するとともに、街路樹として植栽されているヒラドツツジおよびソメイヨシノの光合成機能および炭素安定同位体比の評価を行った。高木であるソメイヨシノについては、調査地間で光合成速度の差が見られたものの、大気汚染物質濃度とは関係がなかった。それに対して低木のヒラドツツジでは、NO2などの大気汚染物質濃度が1.5倍である調査地で光合成速度が16%低かった。さらにヒラドツツジでは、大気汚染物質濃度が高い調査地で葉の炭素安定同位体比が1パーミル高くなっていたことから、葉の光合成機能判定のために炭素安定同位体比が有用であることが強く示唆された。 (2)乾燥ストレス負荷実験: ポット植えした5種の街路樹(カンツバキ、マルバシャリンバイ、レンギョウ、ヒラドツツジ、クルメツツジ)について、1ヶ月間灌水を停止することによって乾燥ストレスを与え、葉の光合成機能や水分状態、および炭素安定同位体比がどのように変化するかを調べた。乾燥ストレスに対する光合成の生化学機能の応答には大きな種間差はなかった。一方、気孔や水分状態の応答には樹種間で顕著な差異が認められた。調査を行った5種の中ではヒラドツツジおよびマルバシャリンバイは乾燥ストレスに対して水ポテンシャルの減少が約10%に留まっており、さらに乾燥ストレスからの回復率もほぼ100%であったことから、乾燥ストレスには強い樹種であることが示唆される。一方、炭素安定同位体比については、予想に反して、いずれの樹種でも1ヶ月間の灌水停止によって変化が生じなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度は、平成27年度までに行った屋外における調査実験を継続してデータを補強するとともに、当初計画でも平成28年度に行う計画であった街路樹の苗木栽培実験を行った。 (1)京都市内における街路樹調査: 高木については平成27年度までとは異なる樹種を、低木については平成27年度までと同一の樹種を対象とし、平成27年度までに行った実験をもう一度行うことで研究結果の検証を行った。その結果、高木および低木いずれについても平成27年度までとほぼ同様の結果が得られ、「高木の光合成は大気汚染物質濃度に対してあまり応答しないが低木は敏感に応答する」というこれまでに得た結論を裏付けることができた。 (2)乾燥ストレス負荷実験: 苗木栽培実験については、街路樹の植栽を実施している事業者である西日本高速道路の担当者と議論を重ね、樹種を5種にまで絞り込み、ほぼ計画通りの実験を実施することができた。実験を行った5種の間ではストレス応答に明瞭な差異が認められ、期待した通りの結果を得ることができた。 さらに、当初計画にあったガス交換測定および葉の炭素安定同位体比の測定に加えて、新たに水ポテンシャルの計測を追加することにより、植物の水分状態/光合成機能/炭素安定同位体の3者の関係をより明確に把握することができるようになった。
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今後の研究の推進方策 |
苗木にストレスを負荷する実験について、樹種を追加して平成28年度と同様の実験を行う。また、乾燥ストレス耐性に関与する遺伝子を明らかにするため、その遺伝子の候補として「アクアポリン」を取り上げ、大気の乾燥ストレスに対する発現量の変動、および炭素安定同位体比の変化との関連を明らかにする。 (1)乾燥ストレス負荷実験: 平成29年度は、新たに街路樹の低木樹種を5種選定し(ヤマブキ、ユキヤナギ、カルミア、アベリア、ツゲ)、平成28年度と同様の乾燥ストレス負荷実験を行う。平成27年度は、1ヶ月のストレス負荷により炭素安定同位体比の差が現れなかったことから、平成28年度はストレスの期間を延長し、どの程度の期間のストレスで炭素安定同位体比に変化が現れるのか、またその期間にはどのような種間差があるのかを明らかにする。 (1)アクアポリン遺伝子の発現解析 アクアポリン遺伝子の塩基配列が明らかになっている「ユーカリ」を対象とし、大気の乾燥ストレスをかけることによって、アクアポリン遺伝子群の発現量がどのように変動するのかをRT-PCRを用いて調査する。気孔の開度や炭素安定同位体比の測定を同時に行い、遺伝子発現量との関係を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初は光合成測定装置のメンテナンス費用、および人件費を見込んでいたが、光合成測定装置のメンテナンスは不要となり、また人件費は他の予算からの充当が可能となったため、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
今年度は昨年度と比較すると遺伝子解析用の試薬など高額な消耗品が必要となるため、「次年度使用額」からの充当を計画している。また、今年度は他予算から人件費の充当が困難であることが見込まれることから、「次年度使用額」は人件費にも使用する計画である。
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