研究課題
都市域において街路樹が受けている環境ストレスを調べるため、京都市内に植栽されている街路樹調査を行った。また、京都工芸繊維大学構内でイチョウの光合成機能の季節変化、および大気のモニタリングを行い、光合成機能、二酸化炭素濃度、および炭素安定同位体比のダイナミクスを調査した。さらに、水利用効率に関わる遺伝子の候補であるアクアポリンのはたらきを解明するため、形質転換体を用いて大気ストレスに対する光合成応答を調査した。(1)京都市内における街路樹調査:京都市内において、交通量が異なる5カ所の調査地を選定し、オゾンの濃度を実測するとともに、街路樹として植栽されているイチョウ、ヒラドツツジ、アジサイ、シャリンバイの光合成機能および炭素安定同位体比の評価を行った。アジサイとヒラドツツジについては調査地間で光合成速度の差が見られたものの、オゾン濃度とは関係がなかった。ヒラドツツジでは、葉の炭素安定同位体比に調査地間で差がみられ、交通量が多い調査地の方が1パーミル低くなった。(2)光合成機能、二酸化炭素濃度、および炭素安定同位体比のダイナミクス:イチョウの光合成機能は葉が展葉する5月から8月にかけてはほぼ一定に維持され、秋季には低下した。この間、葉の炭素安定同位体比にはほとんど変化がなく、季節を通じてイチョウは水利用効率をほぼ一定に維持していると考えられた。一方、大気の二酸化炭素濃度は夏季に減少、冬季に増加し、炭素安定同位体比は逆に夏季に増加し冬季に減少した。(3)気孔制御に対するアクアポリンのはたらき:ハツカダイコンのアクアポリン遺伝子RsPIP2を過剰発現させたユーカリを用いて実験を行ったところ、過剰発現体では、大気を乾燥させたときの気孔コンダクタンスの減少度合いが緩やかになることが明らかになり、アクアポリンRsPIP2は気孔の乾燥に対する感受性を弱めるはたらきがあることが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
平成29年度は、平成28年度までに行った屋外における調査実験について、調査地および樹木種を増加させてデータを検証・補強した。さらに、新たに形質転換ユーカリを用いて、大気の乾燥ストレスに対するアクアポリン遺伝子のはたらきを解明するための実験を行った。(1)京都市内における街路樹調査:高木については平成27年度までと同じ樹種(イチョウ)を、低木については平成27年度までとは異なる樹種(アジサイ、シャリンバイ)を追加し、平成27年度までに行った実験をもう一度行うことで研究結果の検証を行った。また、オゾン濃度の実測を詳細に行った。その結果、イチョウおよびヒラドツツジについては平成27年度までとほぼ同様の結果が得られ、「イチョウの光合成は大気汚染物質濃度に対してあまり応答しないがヒラドツツジは敏感に応答する」というこれまでに得た結論を裏付けることができた。また、大気中のオゾン濃度は交通量とは関係がないことを確認することができた。(2)光合成機能、二酸化炭素濃度、および炭素安定同位体比のダイナミクス:イチョウの光合成機能の季節変化に関しては2015-2017年のデータのとりまとめを行い、季節変化のトレンドはほぼ年次によらないことを示すことができた。一方、大気二酸化炭素濃度および炭素安定同位体比については測定装置の設計を行い、連続データの取得およびキャリブレーションを行うことができるようになった。現在、データ解析を行っている。(3)気孔制御に対するアクアポリンのはたらき:平成29年度にあらたに開始した実験である。アクアポリン遺伝子の検出を行うための予備実験を繰り返し、遺伝子が検出できる方法を確立した。
京都市内における街路樹の調査を継続する。また、苗木の実験により、大気の乾燥ストレスに対する光合成応答メカニズムを明らかにする。さらに、平成29年度に引き続き、乾燥ストレス耐性に関与する遺伝子を明らかにするため、その遺伝子の候補として「アクアポリン」を取り上げ、大気の乾燥ストレスに対する発現量の変動、および炭素安定同位体比の変化との関連を明らかにする。(1)街路樹調査、乾燥ストレス負荷実験:平成30年度は、樹種を2種に絞り込み、より多くの調査地で引き続き光合成機能と炭素安定同位体比との関係を明らかにするための調査を行う。大気の乾燥ストレスに対する光合成機能の応答について、イチョウ、ソメイヨシノ、ヒラドツツジ、シャリンバイの苗木を用いて実験を行う。(2)アクアポリン遺伝子の発現解析:アクアポリン遺伝子の塩基配列が明らかになっている「ユーカリ」を対象とし、大気の乾燥ストレスをかけることによって、野生型のユーカリでアクアポリン遺伝子群の発現量がどのように変動するのかをRT-PCRを用いて調査する。気孔の開度や炭素安定同位体比の測定を同時に行い、遺伝子発現量との関係を明らかにする。
光合成測定装置のメンテナンスのための経費を計上していたが、平成29年度はメンテナンスの必要がなかったため次年度使用額が生じた。平成30年度は光合成測定装置の更新を予定しており、そのための周辺機器の購入が必要となる。また、遺伝子解析を行うためのキットの購入にも使用予定である。
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