研究課題
環境中に存在する病原性微生物は、人や動物の健康に甚大な支障をきたす可能性があり、個々の健康のみならず社会全体にも多大な損害をもたらす。従って、これら諸問題を最小限化することは公衆衛生のみならず、社会全体における重要課題である。本研究は、バクテリアやウイルスなどの微生物由来成分を含むバイオエアロゾルが浮遊粒子状物質として大気中に浮遊する際、大気汚染物資の存在が何らかの理由でこれら微生物の生存、保護に寄与している可能性があるのではないかという仮説の基、汚染物質を含むサブミクロンサイズのエアロゾルにて微生物の不活化への影響を検証することを目的としている。対象とする環境中の汚染物質は、黒煙(煤)などの炭化水素の不完全燃焼から排出される物質である。これらがエアロゾルとして存在した状況での微生物相への影響を異なる反応チャンバーにてシミュレーション実験を行っている。また、異なる温度、湿度、紫外線照射、オゾン暴露下における実際の大気環境中で起こりうる条件を、実験室レベルで評価し、大気汚染物質である煤などの存在がバイオエアロゾルに及ぼす影響の把握を行っている。これらの結果から疾病蔓延の予防策のための情報提供のために基礎的な知識の蓄積を行うことを大きな目的としている。また、基礎的な空気感染を定量化するために、細胞株を使用した感染実験を試験的に行っている。これら細胞株を感染性のエアロゾルに曝露することで、バイオエアロゾルがどれぐらいの感染力を持つか、定量化に向けた基本的なシステムの構築を進めている。これは、ある一定条件で培養した細胞に一定条件下で直接ウイルスを含むバイオエアロゾルに曝露し、感染したと思われる細胞への影響を指標とした定量化を行うことを目的とする。
3: やや遅れている
本プロジェクトは、大気汚染物質のひとつである煤がバイオエアロゾルにどの様な影響を及ぼすかを検証することにある。人工的な煤の生成については、共同研究者であるヨーテボリ大学Hallquist 教授らの協力を得て実験を推進している。煤は様々な過程で生成されるが、その中でも、化石燃料、バイオマス燃料などの炭化水素の不完全燃焼過程にて生成されるため、大気汚染物質として様々な場所で発生しており、重要な調査対象である。具体的には煤を人工的に生成し、これらがバイオエアロゾルの不活化に至る割合の違いについての検証を行っている。これには、Hallquist 教授らの協力が大きくあり、煤の生成、バイオエアロゾルとの混合実験は概ね順調に遂行している。予備実験として、安定的に発生させた煤とバクテリアを混合し生存率の比較を行うことができている。しかし、これまでの検証から、結果にばらつきが見られることがあり、我々の想定する要素以外にも何らかの影響因子が存在することが想定され現在検証中である。また、実際にウイルスを含むバイオエアロゾルを使用して細胞株への感染を検証する実験を本学の萩原教授(ウイルス学)らと共同で進めている。これら感染力を検証する実験では、チャンバー(17L 容器)内を大気相と想定し、これらの中に対流する時間の変化が感染による細胞の変化に及ぼす影響を検証中である。結果から、60分経過後も、チャンバー内に浮遊しているウイルスを含むバイオエアロゾルを細胞株に曝露した結果、感染が確認されていることから安定した感染の評価系の準備ができている。これまではウイルス単一の試験が主であり、ウイルスと煤などの大気汚染物質が混在する様々な成分による影響の評価までには至っていない。
煤の生成、異なるチャンバーシステムなど、これまでにいくつかの実験系を試すことができたことは今後の研究を推進するために重要なデータが収集できている。当初の計画から大きな変更点は無く、引き続きヨーテボリ大学での共同研究を進めていく予定である。これまで使用した流動式チャンバーの実験では、継続した煤の安定的な生成にくらべて、継続的なバイオエアロゾルの噴霧時間が限られていた。このため、さらに長時間の噴霧が可能となるようにネブライザーへの改良や、これらの試験環境での比較的高濃度の粒子径の分布状況の把握が必要である。昨年度購入した光学式パーティクルサイザー(OPS)はより高濃度での正確な測定が可能である。購入直後に、吸引口のトラブルが発生したが、無事に修理・点検が行われ、使用に問題は無い状態にあるので、今後はさらなる詳細なデータの捕集を行う。ウイルスの感染力価を評価する実験では、大気中での異なる暴露前の対流時間が感染に及ぼす影響についての実験は一区切りついており、今後は、異なるウイルス種、それに加えて大気環境中に存在することが想定される煤などの汚染物質、またウイルスのストレス因子として、紫外線、消毒薬、乾燥などの因子が感染に及ぼす影響についての検証を推進の方策とする。上記、光学式パーティクルサイザーを活用して、更なる高精度な実験の推進に集中する。本課題の大きな目的である、大気汚染物質がバイオエアロゾルにどの様な影響を及ぼすのか、またこれらの結果が感染力の保持にどれだけ反映されるかについての更なる検証を上記の方法で進めていく。今後はこれらを活用して、疾病予防を考える上で重要な具体的要素をより明確にし、悪い健康影響の低減につながる情報の収集を推進する。
当初購入を予定していたパーティクルカウンターの購入を2016年度に行い、ほぼ全額を使用した。
本研究の実験において必要となる消耗品を購入予定。
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Japanese. Journal of Veterinary Research
巻: 65 ページ: 29-37
ProScience
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クリーンテクノロジー
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