研究実績の概要 |
工業の発展と共に環境に放出されるナノ粒子が増加し、私たちの健康に悪影響を及ぼすことが危惧されている。マウスの実験ではナノ粒子は母親の胎盤・母乳経由で胎児や乳児の血液に入り全身を回るという。本研究ではナノ粒子の環境影響を解明するため、①細菌生育への影響および②生育阻害機構を調べてその毒性を評価し環境への放出の危険性を発信する事を目的とした。グラム陰性菌(G-)及びグラム陽性菌(G+)を用いた結果では汎用されるカーボンブラックや、酸化チタンでは活性酸素生産が比較的低いとされるルチル型でさえG-の生育を特異的に阻害した。その感受性はペプチドグリカン層の厚さに依存し、細胞壁や細胞膜に障害を与えて細胞内に進入し、生育阻害に至る可能性がある。近年、腸内細菌の網羅的解析が進み、G+の高比率が肥満やガン患者で報告されている。そこで、ナノ粒子暴露により生育阻害を起こしたG-である大腸菌とコントロールの大腸菌においてタンパク質の網羅的比較定量解析を行い発現タンパク質の相違を調べた結果、阻害された大腸菌では1,4-dihydroxy-2-naphthoyl-CoA synthase(DHNCS)が最も増加し、Aminomethyltransferaseが最も低下した。DHNCSは腸内細菌が作るビタミンK合成に必須な酵素であるが、ビタミンKは多すぎれば血栓や塞栓症治療薬であるワルファリンの作用を減弱する。また、マウスやヒトの疾病では細胞の総抗酸化能が低下するとされるが、生育阻害された大腸菌の総抗酸化能はコントロールと比較して35%程度低下した。さらに、有機酸測定ではグルコン酸が大幅に減少した。グルコン酸は強力なキレート剤であり自閉症児との関連も取りざたされている。これらによる大腸菌自体の健康度や他細菌との相互作用、また細胞レベルでの関連性の有無、さらに腸管クロストークなどへの影響に興味が持たれる。
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