研究実績の概要 |
細菌の越境移動に関する現状の把握は、健康・衛生上、また生態系保全の観点から重要な課題の一つである。シベリアや東南アジア、オセアニアに存在する種々の細菌が渡り鳥とともに多量に越境移動している可能性があるがその実態は明らかではない。本研究では、渡り鳥の糞に含まれる細菌群集およびその遺伝子を培養に依存しない新手法で明らかにし、潜在的な病原細菌が長距離移動し、畜産業、農業、水産業ならびにヒトの健康リスクに与える影響について検証する。平成28年度は、大学キャンパス内、関西地区の民家、水辺において、4~7月にかけてツバメ科、11月~3月にかけてカモ科を主な対象として、糞に含まれる細菌群集を解析した。以下の知見が得られた。 1. ツバメについて (1)全細菌数は~100,000,000 cells/gであった。(2)細菌群集構造は、門レベルではProteobacteriaが74%を占め、科レベルではEnterobacteriaceaeが約50%を占め、他の留鳥の糞の細菌群集とは大きく異なっていた。4つのOTUがEnterobacteriaceaeの大部分を占めヒトに病原性を示すものが含まれていた。(3)メロペネム耐性菌が約1,000,000 CFU/g含まれる試料があった。その多くは、Cellulosimicrobium属、Enterococcus属であり、ヒトに病原性を示す可能性があった。 2. ヒドリガモについて (1)細菌群集構造は、門レベルではFirmicutes (52%)およびProteobacteria (45%)が多く、科レベルではEnterobacteriaceae(38%)、Bacillaceae(21%)、Paenibacillaceae(17%)が多く、他の留鳥の糞の細菌群集とは大きく異なっていた。これらの科のうち、特定のOTUがその8割以上を占め、ヒトに病原性を示すものが含まれていた。
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