研究課題/領域番号 |
15K00572
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研究機関 | 関西医科大学 |
研究代表者 |
楠本 邦子 (竹本邦子) 関西医科大学, 医学部, 准教授 (80281509)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 植物プランクトン / 細胞外代謝産物 / 有機物量 / 軟X 線顕微法 / 軟 X 線マイクロCT |
研究実績の概要 |
天然水中に存在する有機物の中で,植物プランクトン由来で,他の分析法や顕微法では把握が困難である主に多糖類から成る細胞外代謝産物(EPS)に含まれる有機物量を,軟X線マイクロCT法で計測する方法の確立を目指している。今年度は、EPS観察のためのX線顕微鏡(XM)試料セル関連技術の最適化を行った。これは,申請者が開発してきた,XM像とEPSの組成比からEPSに含まれる有機物量を炭素換算で求める方法を,大型のシアノバクテリアに適応するために必要な技術である。 ガラス管をプーラで局所加熱して引き伸ばし,良好なX線透過率と適度な剛性および形状を持ったガラスキャピラリィ(直径 10 μm以下,ガラス壁厚 100 nm以下)を作製し,試料セルとした。ガラスキャピラリィへのEPSの充填は吸引法で行うこととした。吸引法で必要量のEPSをガラスキャピラリィに充填できたかの確認は,モデル試料(直径 500 nmの着色ポリスチレンラテックス微粒子を含むアガロースゲル)を用い行った。モデル試料は吸引後,-160℃で凍結しXMで観察した。観察には,酸素のk吸収端より低いエネルギーのX線を用いた。このエネルギーのX線は,水の構成要素である酸素に対する透過率が極めて高いので,水中のラテックス微粒子でも,高いコントラストのX線吸収像を得ることができる。CT法で,ガラスキャピラリィ内で適度に分散したラテックス球を観察することができた。一般に,ラテックス球は溶液内で沈殿凝集することから,アガロースゲルがガラスキャピラリィに充填されていることが示された。また,高分解能CT法で必要な,-160℃冷却時に起こる試料ドリフト軽減に向け,試料ステージとセルの固定治具の見直しを行い,原因を突き止めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度は,主に,EPS の軟X 線マイクロCT 法を実現するための専用CTセルの最適化と, EPS だけを専用CT 用セルに封入する方法の確立を目標として実験を進めた。まず,セルの仕様を決定し,次に,このセルに寒天質状のEPSを,いかなる化学処理を施すことなく,含水状態のまま注入する方法として吸引法を用いることに決定できた。この方法の性能の検証も,着色ラテックスを分散したアガロースゲルをモデル試料として用い,目視によるキャピラリー内への試料の導入および,X線マイクロCT法によるアガロースゲルの充填を確認することができた。 これは,申請者が,細胞径が数百nm以下のシアノバクテリアを用い開発してきた,XM像とEPSの組成比からEPSに含まれる有機物量を炭素換算で求める方法を,大型のシアノバクテリアに適応するために必要な技術である。実際のシアノバクテリアへの適用は次年度に行う予定である。また,分解能を下げる原因の一つであるクライオ観察中の試料のドリフトの原因は突き止めたが,改善にむけた試料ステージの改良は現在行っている最中であり,次年度の上半期中には完了予定である。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度に最適化したCTセルおよびクライオ試料ステージを用い,含水EPSのX線マイクロCT法に最適な観察条件の設定を行う。最適化したEPS充填法を実際のシアノバクテリアに適応する。これらの成果を第13回X線顕微鏡国際会議(XRM2016)で報告する。 (1)X線マイクロCT法の観察条件の設定:最適化したCTセルに含水EPSを封入し,クライオX線CT観察を行い,観察に最も適したエネルギー(波長),温度,時間などのパラメータを決定する。テスト試料は,アガロースゲルと細胞径が2μm以下のピコシアノバクテリアSynechococcus sp.とする。合わせて,前年度から進めているCT像の高分解能化に向けたクライオ試料のドリフト軽減のための試料ステージの改良と,撮像の高速度化に向けたX線CCDカメラの画像取得装置の改良を完了させる。 (2)EPS充填法の大型の植物プランクトンへの適応:アガロースゲルを用い検討したEPS充填法を,実際の試料に適応する。この方法で,大型のシアノバクテリアのEPSを,できるだけ細胞からの影響を受けないように抽出することを目指す。これにより,EPSへの不純物の混入は避けられ,より精度の高い有機物の定量が可能となる。 (3)EPSの化学組成分析と含有有機物量の同定:琵琶湖に生息する藍藻の73%,緑藻の38%が細胞体積の2倍以上のEPSを保有している。その中で培養可能な植物プランクトンについて,EPSに含まれる有機物量を見積もる。EPSの化学分析を行い,化学組成が決定できた種のEPSについて,X線マイクロCT法で得た再構成像からEPSに含まれる有機物量を炭素量換算で見積もる。より簡便で適応性の高い手法とするため,EPSの組成の違いと含有有機物量の関係についても検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
X線顕微鏡の検出器であるX線CCDカメラによる画像の画像処理の高速度化のため予定していた物品の納期が年度内にできなくなったことにより,発注を取りやめたため,次年度使用額が生じた。 また,クライオ観察中の試料のドリフト改善にむけた試料ステージの改良のために必要な治具の設計が遅れたことによる未発注品が存在するため,次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
全ての未発注物品は,次年度の4月に全て発注し,5月中の納品予定で手続きを進めている。上半期中には,最高性能が得られるように調整を済ませる予定である。これにより,全体の研究に大きな遅れは生じない。
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