研究課題/領域番号 |
15K00572
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研究機関 | 関西医科大学 |
研究代表者 |
楠本 邦子 (竹本邦子) 関西医科大学, 医学部, 准教授 (80281509)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | シアバクテリア / 細胞外代謝産物有 / 軟X 線顕微鏡 / 原核細胞オルガネラ |
研究実績の概要 |
天然水中に存在する有機物の中で,植物プランクトン由来で,他の分析法や顕微法では把握が困難である主に多糖類から成る細胞外代謝産物(EPS)に含まれる有機物量を,軟X線マイクロCT法で計測する方法の確立を目指している。今年度は,微細シアバクテリアを軟X線顕微鏡で明瞭に観察するためのエネルギー最適化に向けた実験を行った。 試料は,対象とするSynechococcus sp.細胞に比べ細胞径が大きく,細胞内微細構造の観察が容易なPseudanabaena foetida nom. nud. (Phormidium tenue 緑株)とした。琵琶湖から単離したP. foetidaを,2週間から12週間培養し,シリコン窒化膜上で風乾した試料を,立命館大学SRセンターの結像型軟X線顕微鏡ビームライン(BL-12)と分子科学研究所極端紫外光研究施設(UVSOR)の走査型X線顕微鏡ビームライン(STXM BL4U)で観察した。 2週間培養したP. foetidaの細胞内で,通常細胞で多くみられたポリリン酸顆粒様体は確認できなかったが,532 eV (2.33 nm)付近で高いX線吸収を示す構造体を確認した。532 eV付近にカルボニル基(C=O*)O 1s→π*遷移があることから,カルボニル基に由来する構造であると考えた。細胞内に存在するタンパク質や糖類はDNAに比べ,532 eV付近で高いX線吸収を示すことから,この構造体はタンパク質や糖類が多く含むと考えられる。12週間培養したP. foetidaの細胞は,外形がはっきりせず,原核細胞オルガネラも確認できなかったことから,活動していない死細胞であると考えられる。ここまでの成果をまとめ,第13回X線顕微鏡国際会議(XRM2016)で報告した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成27年度に最適化したCTセルおよびクライオ試料ステージを用い,含水EPSのX線マイクロCT法に最適な観察条件の設定を行う予定であったが,4月に予定していたX線顕微鏡の制御PC仕様変更による画像処理系のバージョンアップが,物品の納品が大幅に遅れ,顕微鏡の立ち上げも遅れ,予定していた実験が全てできなかった。 糖類とタンパク質を分離して観察するための最適なエネルギーを見極めるため,UVSORで走査型X線顕微鏡による実験を計画し,実施したが,装置の不具合でビームタイム中に必要なデータを全て取得することができなかった。
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今後の研究の推進方策 |
含水EPSのX線マイクロCT法で,微細シアバクテリアを明瞭に観察できるエネルギーで,Synechococcus sp.のEPS観察を行い,改良した有機物量同定法の検証を行う。本手法を他の植物プランクトンへ適応する実験も行い,3年間の成果としてまとめる。 (1)X線マイクロCT法の観察:観察エネルギーの最適化後,CTセルに含水EPSを封入し,クライオX線CT観察を行う。アガロースゲルをモデルEPSとして用い,開発中の有機物量同定法で求めた値を検証する。Synechococcus sp.を,X線マイクロCT法で観察し,有機物定量法でEPSに含まれる有機物量を求める。 (2)EPSを持つ植物プランクトンへの応用:MicrocystisなどEPSを持つ植物プランクトンへ本手法を適応し,EPSに含まれる有機物量を求める。 (3)検証とまとめ:本手法で見積もったEPSに含まれる有機物量を化学分析結果や文献値などと比較検討する。琵琶湖に生息する藍藻の73%,緑藻の38%が細胞体積の2倍以上のEPSを保有しているという報告がある。その中で取得可能な藍藻と緑藻のEPSに含まれる有機物量を見積もり,琵琶湖の内部生産を求める。その値と調査結果を比較する。全ての実験結果をまとめ,研究の総括とする。
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