研究課題/領域番号 |
15K00577
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
黄 仁姫 北海道大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (70447077)
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研究分担者 |
松藤 敏彦 北海道大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (00165838)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ごみ焼却排ガス処理 / 塩化水素 / 硫黄酸化物 / 消石灰 / 塩化水酸化カルシウム / 中和反応 |
研究実績の概要 |
ごみ焼却排ガス処理において消石灰(Ca(OH)2)による酸性ガス(HClおよびSOx)の中和除去に影響を与える因子とその反応生成物の形態を調べるために,全国の一般廃棄物焼却施設624か所にアンケート調査を実施した。アンケートに回答した施設の半数以上(n=224)が,ストーカ炉を採用し,乾式の酸性ガス処理と1段式のバグフィルタ(BF)より集じん処理を行っていることがわかった。これらの施設を対象に排ガス処理時の運転条件と処理後の酸性ガス濃度との関係を分析した。その結果,酸性ガス処理に影響を与える主な運転条件として,消石灰の種類,ごみ1tあたりの消石灰吹き込み量,ごみ1tあたりの減温水噴霧量,減温後の排ガス温度を見出した。上記4つの条件の組み合わせにより調査対象施設を分類し,計37施設から38検体の飛灰と, 飛灰サンプリング時の排ガス処理施設の運転条件および処理後の酸性ガス濃度データを入手した。内部標準物質法を用いたXRD分析より飛灰中の消石灰と酸性ガスの反応生成物を定性・定量した結果,SOxとの反応生成物としてCaSO4が検出されたものの, HClとの反応生成物は一般的に知られているCaCl2の無水和物や水和物ではなく,CaClOHのみであった。なお,未反応のCa(OH)2,反応生成物のCaClOHとCaSO4は,重量ベースで各々1.6~19.1%,3.2~18.7%,1.7~9.1%の範囲で飛灰に含まれていることがわかった。飛灰分析結果と施設運転データから求めたHCl除去率は,高反応消石灰の吹込み時,ごみ1tあたりの消石灰吹き込み量の多いほど,また減温後の排ガス温度の低いほど高くなるが,いずれも消石灰とHClの反応生成物はCaClOHであることが確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
消石灰によるHClの中和反応は,Ca(OH)2+2HCl→CaCl2+2H2Oとして知られている。しかし,ごみ焼却排ガス中の酸性ガス処理と集じん方式の大半を占める「消石灰吹込み+バグフィルタ」方式を採用している実焼却施設から入手した飛灰には,消石灰とHClの反応生成物としてCaClOHのみ存在していることが判明された。上記式によると,1モルの消石灰より2モルのHClが中和除去できるはずたが,Ca(OH)2+HCl→CaClOH+H2Oにより中和反応が進むと,1モルの消石灰は1モルのHClしか中和できず,同量のHCl処理に2倍の消石灰量が必要となる。乾式法において目標のHCl除去率を得るために必要な理論上の消石灰量より過剰の消石灰を噴霧せざる得ない理由として,消石灰粒子同士の凝集や反応生成物の消石灰粒子の表面被覆など,物理的要因による消石灰とHClの反応率低下がよく言われている。しかし,今回の研究によって物理的な要因だけではなく,化学反応そのものがCaClOHの生成段階にとどまっている可能性が示唆された。一方,飛灰組成等から計算した消石灰吹込み量と HCl除去量のCa/Clモル比は,すべての施設で1より高かった。中和反応によりCaCl2が生成されたものの, 過剰に噴霧されたCa(OH)2のうち未反応のものが飛灰中にとり残され,CaCl2+Ca(OH)2→2CaClOHの反応を進行させた可能性も排除できない。CaClOHについては,消石灰とHClの反応生成物, もしくは,CaCl2と未反応の消石灰の反応生成物であるか,その反応経路を明らかにする必要がある。以上の結果を踏まえて,本年度は反応シミュレーションとラボスケールの装置を用いた消石灰と酸性ガスの反応実験を行い,実機調査で得られた知見を検証する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
1.シミュレーションによる反応条件の検討:酸性ガス除去に影響を与える因子をパラメータとし,その条件下での消石灰とHCl,SO2反応のシミュレーションを行う。シミュレーションツールは,熱力学平衡計算ソフトのFactSageを用いる。条件設定が簡単であり,短時間で結果が得られる利点を生かして,温度,酸性ガス濃度,水蒸気濃度,消石灰量などの多様な条件と,その組み合わせで得られる反応生成物の形態と反応率との関係を調べ,反応メカニズムを明らかにする。また,酸性ガス除去に影響の大きいパラメータをさらに見出す。本シミュレーションは,等温等圧条件下での平衡状態を前提としており, 反応速度的アプローチはできない。これについては次の室内実験で検討を行う。 2.室内実験による反応条件の酸性ガス除去への影響検証:室内実験は,反応条件と生成物,酸性ガス除去率との関係を明らかにし,今まで得られた知見を検証する目的で実施する。特に実機調査で課題となった消石灰とHClの反応経路を究明するために,Ca(OH)2+HCl→CaClOH+H2O,CaClOH+HCl+H2O→CaCl2+2H2O, CaCl2+Ca(OH)2→2CaClOHなどの個別反応特性を明らかにする。実験は集じん装置を模擬した消石灰充填層を作成し,所定濃度,温度の排ガスを通過させる。HClとSO2酸性ガスの除去率は,各々の排ガス中の濃度と集じん装置通過後にインピンジャで捕捉した塩素イオン,硫酸イオン濃度から算出する。反応後の消石灰は全量回収し,XRD,FTIR,DSC分析より,カルシウム化合物の存在形態を確認し,生成量を測定する。また,SEM-EDXより消石灰表面の反応生成物の分布特性を調査し,HClとSO2除去への相互影響等も確認する。以上の結果から,消石灰と酸性ガス反応を促進し,消石灰の高効率利用ができる排ガス処理条件を探る。
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